体験記│人生を彩るもの【第22章】生きづらさとともに

体験記│第22章 心を食べて、心で生きる

 

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第22章~音楽と私~

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第1話~フィナーレ~

第2話~心の木~

第3話~夏の終わり~

第4話~二人~

無題1437

第1話~フィナーレ~

 

ステージ上で大勢の人の視線を一心に浴びながら歌う私は……

決して完璧に歌えていたとは言えない
正直、緊張や不安から少し歌詞を間違えたりもした……
だけど、間違いなく昨年と比べれば心に小さなゆとりのようなものが生まれていた。
周囲の人の顔を見渡すことができている……
皆の演奏や赤西くんの声もちゃんと聞こえてくる……

 

声が重なる
音が重なる
笑顔が重なる……

気がつけば私はラストの曲まで突っ切るように歌い終え……大きな拍手に包まれていた。

相変わらず、ドクンドクンと鼓動が高鳴っているけれど

これは緊張からじゃない……

言葉に上手く表せないような喜びにも似た
達成感からだった。

観客席を見下ろしながら、少し目を瞑る……
そして、もう一度その光景を目に焼きつけた

 

そこには、家族や友達、沢山の人の笑顔が広がっている……

白い光が舞い降りる中、私はその時再び
新しい自分に出会えたような

そんな、気がした。

 

──無事演奏が終わり、舞台裏に下がると
安堵の笑みを浮かべながら長峰さんをメンバー全員が囲った

今年の演奏会では罪悪感なく、皆の顔がしっかりと見れる……

「真白さん少し間違えたっすよね」
と赤西くんが私を茶化すように言った

「アハハっ、ごめんごめん」

「まぁ、去年に比べたら良かったっすけど」

「何はともあれ、楽しかったね!」

「あっ、爽くん……うん!楽しかった」
爽くんのいつも通りの優しい微笑みを見て
一気に緊迫感はほぐれたが、ドキドキとした高揚感がまだ収まりきらない

 

「今までの演奏の中で今日の演奏が
一番良かったよ」
そう、口にすると長峰さんは山下さんの肩に手をまわしながら鼻歌を歌っていた。

……このサークルに参加して
皆と一緒に歌えて本当に良かった……

その日、私達は長峰さんが用意してくれた9本の懐かしいビー玉入りのラムネで成功を軽く祝って乾杯した。
無題1479

第2話~心の木~

 

私の胸の真ん中に育った1本の心の木は生まれつき周りの人と比べて細くて繊細で脆かったのかもしれない……

そんな、少し周りと違う心の木は周囲の木々に養分を吸いとられるかのように
どんどんどんどん朽ち果てていった……

黒ずさみながら、弱々しくの伸ばした木の枝は次々と折られてしまいなくなっていく……

最後に残ったのはとうとう根っこの部分だけ
になってしまった……

だけど今、私の根はしっかりと力強く土の中で絡みあい支えるようにして再び空に向かって新しい幹を立ち上げゆっくりゆっくり成長していた。

少しの勇気と行動がまた一つ、また一つと私の心の木に色とりどりの実をみのらせ
緑の生い茂った葉を風でユラユラと揺らしながら大空に向かって伸びていく

まだまだ小さく、未熟ではあるものの……

私の苦しみ、私の悲しみ、私の喜び、私の輝く想いを食べるように
沢山の感情を吸い込みながら
人生という一度きりの限られた時間を……
自分らしく色鮮やかに染めて
個性溢れる心の木に育とうとしていた……

だけど、この世界はイタズラに私達を傷つけるようにできているから……
再び、折られたり、切られたり、投げ倒されることもあるだろう……
人は置かれた環境下によっては、非常に残忍で残酷な顔を持っている
戦火の歴史を辿ってもそれはしっかりと
刻まれている

だが、それが人の本能なのだから仕方ない。

私ができることは、出来る限りたくさんの根を地面に生やしながら
この先また、どれだけ傷つけられても

あの光に向かって伸びていけるようにするだけだ。

だから
今日も心を……
無題1479

第3話~夏の終わり~&n
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一大イベントの演奏会は無事終わりを迎え、
今日は夏が終わる前に花火をしようということで、久しぶりに馬鹿になるほど幸せだ☆彡メンバー6人で近くの公園に集まっていた……

辺りはすっかり暗くなって、夏の夜風が気持ち良い。

「夏ももう終わりだねー」
手持ち花火をロウソクに近づけながら私が
ポツリと呟いた

「ほんと、あっという間っすね」

「なんか、ちょっと寂しくなるねー」
と言いながら愛美ちゃんが私の隣にしゃがみ込んだ

「そうだねー
爽くんもそう頷きながら花火の灯りを見つめている

「俺、爽くんが居なくなんて嫌だよー」
ガシッと爽くんの肩を揺するようにして叫いた

「わっ!びっくりした」
「大丈夫だよ海くん何も死ぬわけじゃないんだし」

「だけどさー寂しいじゃん。東京とか行ったら中々会えなくなるし」

「うーん、まぁ確かにそうだけど……
また誘ってくれたら遊びに行くよ」

「本当だな!約束だからな」

「うん!ありがとう」

爽くんと海くんのそんな会話を黙って聞きながら私は少し切ない気持ちになった。

手持ち花火もなくなってきたので高ちゃんが最後に残してあった線香花火6本を手にとると皆に配りはじめた

「ちょうど、最後6本だね」
彼女はそう呟くとニコッと笑った

……高ちゃん、出会った時よりも
よく笑ってくれるようになったな……

6人は薄暗い街灯だけが微かに照らす公園の砂場に円を描くようにしゃがみ込むとお互いの顔を見つめた

「じゃあラストだね!」
私の掛け声と同時に6人は線香花火に火を灯す……

「最後まで灯りが消えなかった人が
王様っすね」

「何それ!王様ゲーム勝手にはじめるな」
私が赤西くんの肩をポンっとそう言って叩くと、まん丸い火の蕾がポタンと呆気なく砂場に落ちてしまった

「あっ!真白さんのせいで
俺のもう落ちたじゃないっすか~」

「わ、私のせいじゃないよ!」
「揺らさないでね」と赤西くんの前に止めるように掌を差し出した

「くそー!兄さーん
と言いながら、私の線香花火を落とすのを
諦めて隣にしゃがみ込んでいた海くんの体を軽く揺すった

「うおっ!ちょっ止めろってば」
そんな言葉も虚しく海くんの光の粒も虚しく砂場に散っていった

「あーあ、何やってんの二人とも」
愛美ちゃんはそんな2人を見て呆れたように
笑った

愛美ちゃんと高ちゃん、そして、爽くんと私の線香花火は少しの時差を伴いながら次々と
光をキラキラと巻き散らしながら小さな花を咲かせた

「綺麗だね……。あっ」
高ちゃんが小さく呟いた瞬間その光の花は
しゅんっと呆気なく落下した

「アハハっ、終わっちゃったね」
と笑ってしまった愛美ちゃんの線香花火も
クライマックスを迎える前に消え去った

「あと、私と爽くんだけだね!」

「そうだねー」
爽くんはニコッと優しく笑いながら小さな声で頷いた。

2人の線香花火が激しい火花を灯しながら
舞い散る姿を息を呑むように4人は見守った

「真白さんの落ちろー!」

「うるさいっ!」

そう、答えた瞬間……
私ではなく、爽くんの線香花火の灯りがポタンと落下して消えてしまった

そんな中、最後まで落ちることなくじんわりと燃えつきていく私の光の粒を6人は白い煙りが消え去るまで

じっと、いつまでも眺めていた……

 

──花火の光がなくなり、少し暗くなってしまった地面から
ふと夜空を見上げると、そこにはまだ沢山の光がキラキラと輝いていた……
「じゃあ、私が王様ってことで命令します」

 

「いやっ、反則したからノーカウントっすよ」

「じゃあ、爽くん!」

「えっ、僕一番最初に落下してないのに!?」

「遠くに行っても皆のこと忘れないこと!
とか、言ってみたりして」と
私が恥ずかしさを誤魔化すように笑うと
爽くんは真剣な面持ちで

「忘れないよ」といつもより低い声のトーンで呟いた

そんな、彼の表情を見て私はしどろもどろになりながら

「冗談!冗談だよ~東京行ったらこっちで獲れたサツマイモでも大量に送ってあげるよ」
と戯けた。

「なんでサツマイモ?」

「田舎が恋しくなったら可哀想だしさ」

「アハハっ、白ちゃん意味不明」
そんな、爽くんと私のやりとりを4人は
温かい眼差しで見守っていた……
無題1479

第4話~二人~

 

すっかり季節は変わり、庭からは秋風に乗って金木犀の花の香りが立ち込めてくる

夏の太陽は沈み、すっかり落ち着いた優しい光で地上を見下ろしている

そんな空を見上げながら私はある決断をして今日という日を迎えた……

あの夏の夜からずっと、あの日の爽くんの笑顔が忘れられない……
私は何度もこの抑えきれない気持を伝えて
しまおと思ったが……
友情を壊してしまうかもしれないという
気持からそれを抑制していた。

だけど結局、今のままの気持ちで彼と友人として接していく自信がなくなった私は
友人としても、彼と距離を空けようとしてしまっていた……

あの花火以来、彼を含めたメンバーで集まることをどこか恐れていた自分がいたからだ……

爽くんの口から彼女の話を聞く度、彼女の話をしながら微笑む彼の表情を見る度
私の感情が隠せなくなっていたから……

本当に好きなら心から彼の幸せを祝ってあげられるはずだと思っていたのに
それができない自分自身を責めることにも
いよいよ疲弊してきた。

だから私は……自分の気持ちをしっかり伝えて
振ってもらった上で再び友達としてやり直す
という道を選択した

きっと、どれが正解かなんて答えがないことも……
考え方は人それぞれだということも分かっている……

分かった上で私は私なりの答えで
行動すると決めたんだ

結果がどうなろうとも、自分自身で悩み考えたことなら後悔はない!とは
言いきれないかもしれないが……
後悔は少ないだろう。

私はその日、二人で弾き語りに行こうという口実で彼を呼び出した……

彼女には申し訳ないと思ったが、二人で会うのは今日で最後だからほんの一瞬だけ許して下さいと心の中で謝罪した。

私は今から大好きな人に振られに行く……

そんな大きな覚悟を背負って、あの日二人で弾き語りをした思い出の川辺に向かった……

「ごめん、白ちゃんお待たせっ!」

「大丈夫!今来たところだよ」

……ドクンドクン……

二人は川辺の芝生に腰掛けながら
ギターケースを開いた。

「どの、曲弾こうか?」

「爽くんの好きな曲で良いよ!」

「んーじゃあこの曲知ってる?」

「あっ、知ってるよ!歌だけなら入れる」

爽くんが何気なく優しく微笑んだ顔を見るだけで胸がきゅっと締めつけられるように痛い。

それに、彼が最後に私に送ってくれた曲の歌詞は何だか、少し……心に染みた。

~♪~♪~♪~

あの日から世界が輝きだしたんだ……

辛さや苦しみを掻き消すように
君との大切な時間を忘れないように
何度も何度も声にして叫ぶよ……
ありがとう……
僕はこの時間を永遠に忘れることはないだろう……
さよなら……

爽くんの優しいギターの音色と私の歌声が重なり合って、秋風にさらわれた。

「爽くん……

「ん?どうしたの」

「…………」

「ん?」

……人間って不思議だな……

……好きな人の顔を見ているだけで、涙が溢れそうになるんだから……

……そっか、今……私……

……心が幸せなんだな。……

どのくらい沈黙が続いたのか分からない……
だが、たった二文字の言葉が喉につっかえて全く出てこない

「少し、冷えてきたね。白ちゃん大丈夫?」

「あっ、うん」

……どうしよう、これ以上待たせたら迷惑だ……

私はもう諦めてしまおうと思い立ち上がり
お尻についた葉っぱを手で払い除けた……
爽くんも私に合わせるようにギターを仕舞おうと動き出す

「白ちゃん、今日はありがとう」
そう言っていつものように優しい顔で微笑んだ。
何一つ出会った時から変わらない
柔らかく温かい笑顔で

人生は、一度きり……

明日が100パーセント今日と同じように訪れるなんて誰も言いきれない……

ジージージーという虫の鳴き声が鳴き止んだかのように聞こえなくなった瞬間……
小さな私の声が喉から零れた。

「好き」

「えっ……」

私が彼の方をちらっと見ると彼は少し驚いたような顔をしたものの、すぐに嬉しそうな表情になった

「……びっくりしたけど、ありがとう!」

「うん」

「だけど、僕には……

彼がその言葉を言いかけたところを遮るように

「って、伝えたかっただけだから!爽くんに彼女さんが居るのは分かってるし
と笑った

「……びっくりした。」

「アハハッ、二度目だよその言葉!」

私はあえて、悲しい表情は見せなかった……

彼にとって今日という日が嫌な思い出になって欲しくなかったということもあるが……

私自信、一度表情を崩してしまったら我を忘れたかのように泣いてしまいそうで怖かったということもある。

「だけど、いつから?」

「んーはっきりとは分かんないけど……」

「そっか……」

「だけど、皆には言ってないから
これからも今まで通り普通に友達として接してくれないかな?

「……。」
彼は一瞬こっちを見つめると

「白ちゃん、ありがとう」
そう言って屈託のない優しい眼差しで微笑んだ

辺りから再び虫の鳴き声と子供達の笑い声が
聞こえはじめた……

……さよなら、私の大好きだった人……

……人をこんなに好きになれる自分に
出会えて、良かった……

今でも、あの川辺の近くを通ると
あなたの優しい笑顔を思い出す。
無題1479

~あとがき~

無題600

~人生~

私の人生はたくさんの人の手により
救われたと思う……

だけど、それと同じくらいたくさんの人に
私の心は唾を吐きかけられた……

心の傷は消えることはない……

だが、少しの勇気と行動で自分の気持ちを
変えることはできる

自分の気持ちが変われば、周りの環境も自ずと変化していく……

私が心から笑えるようになることで
周りもまた優しい眼差しを向けてくれるようになる

生まれもった大きな見えない壁は
生きていく上で本当に様々な場面で足枷になった……
その理由が分からないまま、周囲から嫌悪感を向けられては、罵声を浴びせられることも多々あった

同じ人間として、劣っている……

そんな思いをひしひしと感じながらも
自分にできる努力に時間を惜しまなかった……

しかし、その努力も限られた場所や環境でしか全く役に立たない……

そんな、ことも分からぬまま
私はただひたすら普通の人間に近づきたくて走り抜けてきた

尾の無い鳥は真っ直ぐ飛ぶことはできないのに……

そのバランスの悪さから何度も何度も
壁に衝突したり、地面に転げたりしながら
もがき苦しんでは弱っていく……

あの大空を優雅に舞う同じ仲間に
憧れて……

それから、心を病み更に状況は悪化した。

不謹慎な言葉だとは分かってはいるが……
「誰かが私を殺してくれるなら有難く受け入れよう」とすら思った時期もあった

何十年もの間、苦しみ続けたあの日々の私に

今、言いたいことはこれだけ……

「生きていてくれて、ありがとう」

少し年を重ねてはしまったものの、私の努力はやっと報われたのだと思う。

苦しい環境や私の病気が治ったわけではない……

だけど私は、新しい自分の心を手に入れることができた……

それは、何より私の努力の結晶だと思う

未だに人並みに出来ないことは多々あるが
それでも私は仲間との時間、恋をした時間
そして、音楽という生きがいに出会い
幸せだと感じられる時間を手にすることができた。

まだまだ、長い人生
きっと、辛く苦しいこともあるだろう

だけど、それに負けないくらい
幸せを見つけていけたらなと思う。

私の生き方、言葉を発信することで
誰かたった1人にでも
何かを伝えられたのなら幸いです

最後まで、ご愛読ありがとうございました。