体験記│女子中学生といじめ-生きづらさとともに【第3章】

体験記【第3章】心を食べて、心で生きる


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第3章~変わりゆくもの~

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第1話~体育祭~

第2話~共食い~

第3話~スキー実習~

第4話~透明人間~




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第1話~体育祭~


あれから、夏休みに入りあっという間に
2学期がはじまった

クラスではすっかり体育祭の準備が始まり
その中でもカースト上位の子達が中心になり応援団を結成していた

私は砂希ちゃんに誘われたが
目立つのは苦手なので裏方の横断幕作りを
することに……

ギャルっぽいお洒落な子達に囲まれながら
砂希と七絆は応援団の集まりでワイワイと
楽しそうに喋っていた……

体育祭の応援団といえば
2年、3年と一緒にその団の前に立って
学年ごとにクラスをまとめたり
華やかな衣装を着て皆の前で応援したりと
憧れる役割ではあったが、私には到底できそうになかった。

遠目から見る、砂希と七絆は
少し違う世界のような人に思えて……
なんだか寂しくなった。

体育祭の取り組みが終わると、私たちは
いつも通り3人でお昼を食べる
この頃くらいから、二人はよく応援団の話しをするようになり……
私はその間、一人黙々とお弁当を箸で突いていた。

どうやら、砂希と七絆の間のわだかまりは
溶けたようだ……

……良かった……
……これでまた3人で仲良くできるよね?……

「あっ、そうだ!

昼休みに応援団の集まりがあるから
七絆と二人でちょっと行ってくるね」

「あっ、うん!分かった」

「ごめんね、白ちゃん」

七絆ちゃんは、あの星のペンの一件以来
あまり、私には話しかけてくれなくなった

……七絆ちゃんに嫌われたかな……
そんな風に思っていた……

二人は昼休みが終わるまで帰って来なくて
私は他に話す人も居なかったので、教室の中でポツンと一人になった。

ソワソワする……
小さい頃はずっと一人だったのに……

そんな気持ちを抑えながらも
時間は過ぎていった。

あれから、数週間後……

一大イベント
秋の体育祭は無事終わりを迎え

校舎の周りの木々は少しずつ
緑から黄色や赤に移り変わりはじめていた。
無題1479

体育祭の後から、いわゆる派手目な一軍の
子達と仲良くなった砂希と七絆とは
なんだか透明のフィルターがかかったかの
ように少し遠く感じるようになっていった……

砂希ちゃんは最近、あの星のシャーペンを使うこともなくなっていた。

キーンコーンカーンコーン

聞き慣れたチャイムが響き渡る

「じゃあまた明日ね!」

「また明日~」

そう言って二人と別れた…………

その日が
もうすぐそこまでやって来ている……

私は教室に背を向けた。

無題1479

次の日から、砂希と七絆はカースト最上位の女子グループ4人と一緒にお昼を食べるようになった。

私は、一応誘ってもらえたけど……
6人がぴったり合わせた机の角に一人机をポツンと合わせて、時々砂希ちゃんから振ってもらえる話題に笑顔で頷くだけだった。

もう、何かが進み出している……
私は気づいていたのに気づかないふりをした

現状を直視したら
心を焼かれそうになるからだ……

第2話~共食い~

昔、家で飼っていた青いインコは狭い鳥カゴの中でストレスを感じ
仲間同士、共食いしていなくなった……

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いつもの朝のニュース番組のアナウンサー
の「行ってらっしゃい」という声とともに
玄関の扉を開けて学校に向かう

今日も昨日と変わない真っ青な空に鱗雲が
泳いでいる……

教室の入り口の前に立つのは
入学してから、もう何度目だろう

1年3組の文字 変わらない白い扉

「ガラッ」
扉の音で数人のクラスメイトが一瞬だけ
一斉にこちらを見たが、再び視線を逸らした

……あれ?なんか雰囲気が……

今までなら、誰かが「おはよう」と声をかけてくれていた……

私は異様な空気の中で寂しくポスンと自分の席に座った……

その後を追いかけるように砂希と七絆が教室に入ってきた。

「砂希ちゃん!七絆ちゃん!おはよ~」と
1軍女子グループの一人が言うと
他の子達も次々に「おはよー」と笑顔で二人に話しかけた。

私の臆病でノ
ミのような心がドクンドクンと波打って……
胸の辺りがギュッと誰かに握り潰されたかのように締め付けられた……

砂希と七絆が二人だけになった時を狙って
「おはよう」と駆け寄ってみたが……

二人は席に座りながら、何もなかったかのように話しを続けている

……聞こえなかった?……

「二人とも何の話してるの?」

「…………。」

二人は顔を見合わせて、今まで見たことも
無いような冷たい視線をこちらに向けると

「七絆ートイレついてきてー」

「うん!いいよー」と言ってクラスから出て行ってしまった。

私は今起きている状況がすぐには飲み込めなかったが……

一人教室の机と向かい合っている間に

……あぁ、今私二人に無視されているんだ……
その答えはすぐに出た

……だけど、何で?私何かしたのかな?……
そんなことを授業中ずっと考えていた

文字で表すと、たかがこれだけの事だけど
あの時、あの瞬間のその心を屋上から投げ落とされるような感覚はその状況に陥った人にしか分からない

大丈夫……大丈夫……明日になれば元に戻る

大丈夫……大丈夫……話し合えば元に戻れる

大丈夫……大丈夫……きっと、次の日には違う子がターゲットに変わる

大丈夫……大丈夫……きっと、きっと、大丈夫。

そんな風に自分に言い聞かせながら
3ヶ月が過ぎ去った。

私の置かれた環境は何も変わらなかった

「私、何かしたかな?」

「何かしたなら謝るから!」

そんな言葉さえ
無言の圧力で消し去られていく

学生時代の3ヶ月は長い……。

心が枯れ逝くには十分な時間だった

70回以上、地獄の白い扉を開けた
その度に明日こそは頑張ろうと一人誓った

50回目の扉を開けた日、砂希ちゃんがゴミ箱にシャーペンを投げ捨てた

「これ、もういらな~い」

それは、二人お揃いで買った星のペンだった

他の子に無視されることには次第に慣れて
いったけど……

砂希ちゃんだけは絶対に諦めなかった

……砂希ちゃんはきっとちゃんと向き合えば
分かってくれる……

………前みたいに一緒に笑い合えるはず………

…………絶対に諦めたりしない…………

「砂希ちゃん!おはよう」

私は今日も返ることの無い返事をただ待っていた……

明日には、1泊2日のスキー実習が控えている

ぼんやりと一人、席に座りながら眺めた窓の外が白く染まっていく……

………砂希ちゃんを信じてる………

一人で歩く帰り道は

足先が凍った……

指先が凍った……

心が凍った……

これは、いじめではない……
私はいじめられてなどいない……

なぜなら、もし先生に相談するとして
「あなたは何をされましたか?」
と聞かれたら
「何もされてません。何もされません」
としか答えられないのだから

いじめ漫画でよく描かれてるように、上靴に画鋲を入れられたり、トイレに入っていたら、上から水をバシャーッとかけられたり
机の上にラクガキで「し◯」とか「ブ◯」
とか書かれて、窓から机を放り投げられた訳でもないのだから……

戦う相手も怒る相手もいない……

だから、我慢していればいつか……
いつかは通りすぎるでしょ?

家の前の見慣れた風景が視界に入ると
ホッとした

「ただいま~」

「おかえり」

そう言って母は
「最近学校どう?」
と私の顔色を覗うように尋ねてきた

「ぼちぼちだよ!」

「そう!なら良いんだけどね」

私は痛々しいつくり笑いをするのが精一杯だった……

それと共に、家族に心配をかけてはいけない
頑張らなくてはという使命感のようなものが
働いた。

明日からの1泊2日のスキー実習に必要なものを鞄に一つ一つ確認して入れる

目を背けたい明日と……
背けられない現実……

心は、鞄に荷物を入れるほど重く苦しくなっていき、今にも何かを吐き出しそうになっていた。

無題1479



第3話~スキー実習~

体が重い……校舎の前にはスキー実習に向かうバスが数台並んで、鈍いエンジン音と共に
黒い排気ガスを出していた。

クラスメイトの子達は楽しそうに笑いながら少し冷えた空気で鼻の頭を少し赤色に染めている

……寒いな……

この日の私のバスの席は補助シートだったので、皆が座り終えるまで外で待っていることにした……

いちいち邪魔そうな視線を向けられて、補助シートを折りたたんでは立って座ってを繰り返すのは辛いし……かと言って他の子が来るまで別の席に一人ポツンと座っていても
「お前何で私の席に座ってるんだよ」という冷ややかな眼差しを向けられ邪険に扱われるだけだ……

できれば、このままバスに乗り込みたくないとさえ思っていた。

少し凍った地面に足は突き刺さったかの
ように動かない

そんな時、砂希の声が後方から聞こえた何度も聞き覚えのある透き通るような可愛い声

「あっ、砂希ちゃんおはよう!」

「それでさ~昨日ね~」

「アハハハ!まじウケるー」
そんな会話を七絆としながら
私の声は虫の鳴き声のように聞き流された

また、チクチクと胸の真ん中が痛む

……大丈夫、大丈夫。もう慣れたでしょ?……

私は黙ったまま一人俯いて一番最後にバスに乗り込んだ。
まるで、そこには光野真白という人間が
存在しないかのような空間が広がっている

私に向けられるのは、時折補助シートを
邪魔そうに睨む子達の視線だけだった

バスは山の中をぐねぐね進み、更に気分が
悪くなり吐きそうだ……

あれから1時間……
1度も口を開いていない私の唇がくっついたかのように粘膜を張っていた。

こんな私だが、今の現状を抜け出すために
勇気を出して他のグループの子と思い切って仲良くしようと試みたことも数回あった……

だが、中学生の集団心理とは恐ろしいものだ……

すでに、クラスメイト全員がいつの間にか

砂希と同じように煙たいモノを見る目つきで私を受け入れてくれなくなっている……
その心理もまたスクールカーストの影響が強く結びついているのだろう……

私の居場所はどこにもなかった……

ただ、砂希ちゃんだけは

きっといつか昔のように戻ってくれる……

それだけを信じて学校は1日も休むことは
なかった

いや、むしろたった1日休んでしまえば
もう2度と学校に通えなくなることが分かっていたのだろう……

私は、無意識に自分の未来を家族の信頼を守ろうとしていたのだ。

バスの中には「キャッキャッ」と楽しそうに騒ぐクラスメイトの甲高い声が響いていた……

……何も行動しなきゃ何も変わらない……

私は少しの勇気を振り絞って、鞄の中から
クッキーの袋を取り出すとビーーッと破いて
砂希ちゃんと七絆ちゃんの方に
「このクッキー美味しいんだよ!二人とも
良かったら食べてみて」と痛々しい作り笑いをしながら差し出した。

ドクン……ドクン……
少し手が小刻みに震えている……

砂希ちゃんは一瞬チラッとこっちを見たあと
自分の鞄をガサガサとあさって

「じゃ~ん!これ食べる?」
とよく似たクッキーの袋を取り出して七絆のほうに見せた

「え~♪超美味しそう!さすが砂希っ」

「でしょ~食べよう!食べよう」
二人は、クスクス笑いながら何もなかったかのように会話を続けた

私のお菓子を差し出した右手が行き場を無くし、力なくそっと舞い戻った。

「クスクス」

「あれ、見てよ。まじウケるね」

「アイツ、本当にウザいね~」
そう後ろの席の1軍女子からの罵声が聞こえた

……大丈夫…大丈夫……

私はその誰にも食べてもらえなかったクッキーを自分の口に入れた

……甘い……

「バリッバリッ」という咀嚼音がやたら
うるさく感じ、耳障りだったので残りは
そっと鞄にしまう……

「あと、10分ほどで着きますよー」という
先生の声が唯一の救いだった。

こんな苦しみを今日は1日中我慢しなければならないのかと思うと……

この雪山で遭難でもして、消えてしまいたいとさえ願ってしまった……。

スキー場に着くと、それぞれスキーウェアに
着がえて靴を履き替えた

私はスキー初心者だったため歩くのさえ
ままならない状態に不安でいっぱいだ……

ただでさえ誰も助けてくれない状況なのに
足の自由まで奪われて雪山に放り込まれる
なんて……地獄でしかない。

砂希は少しスキー経験者で、七絆は運動神経が良かった、そんな二人はすぐに上達して
楽しそうに遠くへ消えていく

私は人の邪魔にならないように、真っ白なゲレンデの真ん中から辿々しい滑りでドサッと一人転びながらも端っこに座り直し
遠くをじっと眺めていた……

……寒い……早く、時間よ進め……

その時だった……
ジャーーッとスキー板と斜面が擦れる音と共に、1軍女子で最近砂希とも仲の良い美雨(みう)が私の名前を呼んだ

「光野さーーーん」

「えっ!」
私は、意外な人物から声をかけられたことに
目を丸くした

それと同時に、久しぶりに誰かに名前を呼んでもらえたことが少し嬉しかった……

そんな私の気持ちとは裏腹に、美雨は冷たい目でニコッと口元だけ笑うと

「砂希ちゃんが居ないと一人ぼっちだね」
と呟いてスッと立ち去った

あぁ……まただ……

少しの期待からの絶望……この繰り返しだ……

それなのに、私は毎回毎回懲りずに人に期待して……

……バカだな。……

目がじわっと
少しだけ潤んだが、唇を噛みしめるようにしてそれを止めた

そんな辛く孤独な時間は永遠のような長さに感じる……
目の前は吹雪と靄が重なって何も見えなくなった。

スキー実習1日目の前半でほとんどの体力と
気力を失ったが……

私の気持ちが通じたのか、悪天候により実習が打ち切られたので予定より早めにゲレンデ近くのペンションに戻ることができた。

………今日はここで泊まるのか………

私達が泊まるペンションは一室3~4人で、
砂希と七絆の二人が渋々私を含め3人で泊まることになった。

隣は美雨ら1軍女子の4人部屋になっていたので、二人はほとんどそっちに遊びに行ったきり帰って来なかった……

私は仕方なく部屋でポツンと荷物の整理を
していると……

涙だか鼻水だか分からないくらい
いろいろなものが溢れ出ててきた……

………今なら自由に泣ける……

隣の部屋との壁が薄いため、砂希達の楽しそうな笑い声が聞こえてくる

「アハハー!それ分かる~」
ドンッドンッと壁を叩くような音が頭に響いて……

そんな笑い声でさえ私のことを嘲笑っているような、そんな気持ちになった……

夕食前になりやっと二人が部屋に一度戻ってきたので、私は慌てて涙を拭いて笑顔を取り繕った

「あー二人ともご飯いくの?私も行くね」
二人は何もなかったように準備をして再び
部屋を出ようとしていた

そんな二人に縋るかのように私はその後ろからひっそりと着いていった

今思えば、一人でも堂々としていれば良かっただけなのかもしれない……

だけど、思春期に「一人ぼっちの女子」というレッテルを貼られることは本当に恥ずかしいことで……

一人で居るだけで、周りから同じ人間として扱われないというイメージを持つほど、集団というものに重きを置いていた。

だから、例え金魚の糞と言われようが
足にしがみつこうが……

誰かと一緒に居る風に見せるということが本当に本当に大切だった。

その為になら、作り笑いを耐えようが……
無視されようが……自分の心を傷つけようが……我慢できた

夕食の席は8人がけだったので
前には美雨達の4人、反対側に私、砂希、七絆の3人で座った。

向かい合わせになった美雨はこっちをチラッと見ると隣の子に「席変わって~」と言った

「えーやだー」

「何でー?」

「えー何でって分かるでしょ?」

「うわぁーーー最悪ーー」

「アハハっ、ドンマイ!美雨」

私の目の前でそんなやり取りが繰り広げられている。

………ズキッ…ズキッ…………

俯きになりながら、ぐっと我慢した私は救いを求めるように、砂希の方をチラッと見たが
砂希は少し私と反対側にスッと寄って
「美雨が嫌なら、私はどうなるのよ~」

「確かにそうだね!」

「アハハハハハッ」
6人は一斉に笑った。

このまま沈黙を続けると私は“いじめ”られてるように見えてしまうと思い、慌てて

「やだな~二人ともそんな嫌わないでよ~
アハハッ」と、笑ってみせたが……

「ふっ」と誰かが鼻で笑っただけで私の言葉は完全に無視されてしまう

心の奥で、このままだと私はいじめられっ子になってしまうという恐怖感が襲う……

私はまだいじめられてなんかいない。
ただ、いじられているだけだと自分に言い聞かせた……

いつも食べるのが遅い私は、一人その場に
取り残されないように必死でご飯をかけ込んだ……
食べているのか食べていないのか分からないような食べ方で……

私の心は常にビクビクしていて休まる暇がなかった。

その日は、公衆浴場での入浴だったので
私だけお風呂には入らなかった……

自分の体を見られて悪口を言われたりするのは、さすがの私もきっと耐えられないと
思ったからだ……

砂希と七絆はお風呂から帰ってくるとそそくさと布団を敷き始めたので、私も黙って布団を敷いた。

小さな小窓から見える夜空は月の輝きも
星の煌めきも何一つ雲で隠れて見えなかった……

無題1479

第4話~透明人間~

普通の大多数の子は学生時代の一泊旅行の夜といえば、友達と「キャッキャッ」と騒ぎながら枕投げをしたり、怪談話で盛り上がったり、好きな男の子の話しを熱く語り合ったりしながら友情を深め合い、思い出を作り
それは、それは、楽しい夜になったはず

だろう……

だけど、私は違う……
これが私の現実だ。

砂希が「私、寝相悪いから端で寝るね」
と言うと

七絆も「私も端で寝たい」と言った。
部屋が狭いということもあり、布団は横並びに3つピッタリと敷き詰められている……

……私が真ん中で寝るなんて……
……もし二人に寝相とかで迷惑をかけたら……

「私も寝相が良くないし」
とすかさず言ってみたが……

二人はそそくさと両端の布団に潜り込んでいたので、私は仕方なく二人の真ん中に横になることにしたが……

……きっと、一晩中不安で眠れないな……

電気を薄暗くして、二人は私を挟んで会話をはじめた……

「七絆~先に寝ないでね~」

「砂希こそ寝ないでよ!」

「何だかちょっとこの部屋不気味だし」

「止めてよ~縁起でもない」

「私さぁ、小さい頃幽霊見たことあるんだ」

「止めて!止めて!」

「明るい話しようよ」と言うと

二人はそれから恋愛話に切り替えた
私は時々「そうなんだー」と会話に入ったり「アハハ」と笑いを入れたりしてみたが……

永遠に私に話題が振られることはなかった……

その時突然……
ドサッと布団の上に何かが乗っかったようなそんな、重みを感じた

「七絆の顔が見えないよ~」
と言って砂希が私の上に上半身を乗せて肘をついた

「ちょっ、砂希ちゃんビックリした」
私が苦笑いでそう言うと

今度は反対側から七絆も「ドサッ」と
私の上に肘をつけた

「これ、喋りやすいね」

そう言って二人は平然とまるでテーブルの上に肘を付き向かい合って会話するかのように話しはじめた……

……重い……

「アハハ、もう二人とも重たいでしょ」

「…………。」

二人は私の声に全く反応せず、楽しい恋愛トークを続けた。

今考えれば……
私にはこの時、多くの選択肢があった……

その場から逃げ出すことも、本気で怒ることもできたはずだ

だけど、何もしなかった……

何かをしようと思えなかった……

私はただ、二人の話しを聞きながら、二人が笑ったと同時に一緒に笑った

そして、笑いながら
「もうそろそろ本気で重いよ~」
と微かに抵抗した

二人の耳には聞こえないようだった

いっそのこと、本気で机に生まれてこれば
良かったのかな?

でも、私はこの時……

確かに必死で何かを守ろうとしていた……

それは、小さな小さな目には見えない
自尊心だった。

私の目はまた少し赤くなってきた……
心は赤く腫れ上がり膿をつくる……

それを洗い流そうとする涙でさえ
自分で抑制しようとしていた……

二人がやっと寝静まった頃

スッと布団から出ていた私の手に、寝相で転がったであろう砂希の手が触れた

その手から……
いつの日かの二人に戻ったかのようなそんな温かさを一瞬感じることができた。

砂希ちゃんの寝顔は出会ったあの日のままだ

……砂希ちゃん……

……まだ、信じてる……

こぼれ落ちた水が戻らないように……
流れた時間が戻らないように……

もし、もう戻らないモノが
あるとするのなら……

貴方はいったいどうしますか?
……続く……