【体験記】コミュ障中学生と集団無視-生き辛さとともに│第4章

体験記│第4章 心を食べて、心で生きる


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第4章~鏡の中の自分~

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第1話~安らぎの場所~ 


第2話~冬休み~

第3話~鏡~

第4話~3学期~




無題600

第1話~安らぎの場所~

地獄のような1泊2日のスキー実習が終わり
今日からまた、いつもと同じ
1年3組の文字と白い扉の前に立っていた

相変わらず毎日毎日、屋上から飛び降りるような生き心地のしない気持ちでドアを開ける……

「ガラッ」

ヒソヒソと誰かの話す声、冷たい視線……
それに触れる度に砂漠のような心に亀裂が

入って痛かった……

「砂希ちゃん、おはよう」
私は生気の無い声でいつも通り話しかけた

砂希ちゃんの表情は私が声をかける度、日に日に険しくなっていく

当時の私は、ある意味砂希ちゃんに依存していたのだと思う。
だけど、そうするしかあの頃の私には
自分を守る為にできることが無かった……

きっと……私だけではなく、砂希ちゃんも
苦しめていたのかもしれない。

キーンコーンカーンコーン

3時間目は移動教室

砂希と七絆はテキパキと準備を済ませて
教室を後にする
私は、その後ろからバタバタと焦りながら
準備をして小走りで廊下に向かった

その時、「ドンッ」という衝撃音と共に
私は誰かとぶつかり廊下に崩れ落ちた

「痛っ……」

教科書やノートが廊下に散らばり
筆箱から数本のペンが飛び出して転がった

目の前には黒い学ランを着た男子が佇んでいた。

「ごっ、ごめんなさい」
と焦って私が謝ると

一瞬こっちを見てから、「ちっ」と小さく舌打ちをして教室に入っていった

私はまだ何が起きたのか良く分からないまま
唖然と座りこんでいた……

砂希と七絆の姿はもうない

後ろから、「クスクス」と笑う誰かの
声だけが聞こえてきた……

それは、伝染していくんだ……

同じ空間で息を吸うたび
同じ環境で息を吐くたび
次から次へと、次第に世界を広げて
ずっとずっと遠い場所まで……

廊下を通り過ぎる人を足元から見上げるような体勢で、私はガサガサと大慌てで筆箱から飛び出した筆記用具を拾う

その中には砂希ちゃんとお揃いで買ったあの星のペンもあった…

……良かった……
……踏まれなくて……

紺色のスカートが少し白くなる
それを叩き落とすこともせず
汚れたままで二人を追いかけた……

少しずつ、周りが見えなくなっていく

………大丈夫……大丈夫……
………きっと…………まだ、大丈夫………

私が、そう辛抱強く耐えられたのは

こんなエピソードがあったからだ……

それは、私がまだ小学校1年生の時……

祖母に手を引かれながら家族で作っている
野菜畑を一緒に散歩していた時の話……

私の祖母は、強く逞しく、そして優しかった。

泣き虫だった、幼い私が
「おばあちゃん、どうしよう」
と心配そうな顔をしながら抱きつくと
「大丈夫だよ……」と優しく頭を撫でてくれる

クラスで明日作文の発表会があり、教壇の前に立って読まなければならない……そんな小さなことで強いプレッシャーを感じ、不安で不安で仕方なかったのだ

だけど、極度なあがり症の私にとって
それは何より苦痛な時間だった……

そんな私を励ますように、おばあちゃんは
畑に植えてあった私の頭よりも大きいスイカを両手で抱えながら黒く日焼けした顔から
ニカッと白い歯を見せると

「白ちゃん、大丈夫だよ」

「この世で起きたことは
この世でどうにでもなるんだから……」
と言った。

戦争経験者のおばあちゃんが語る一言は
何より重い……

「そんなことで、いちいち死ぬような顔していたらいくつ命があっても足りないよ……」

「もっと、強くなりなさい!白ちゃん」

そう、励ましてくれたおばあちゃんの手は
少し土の匂いがして

温かかった……

空はオレンジ色に染まり……
大きな影と小さな影は二つピッタリと
くっついたまま家に向かって歩きだした。

あれから、数年たった今も
私は大してあの頃と何も変わっていない……

ただ挫けそうになった心に、時折
大丈夫……大丈夫……きっと大丈夫。そうひっそりと唱えながら今にも崩れそうな足元を
ギリギリのラインで踏みとどまっているだけだ……

キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン

チャイムの音は私を再び
現在に連れ戻した…………

3時間目の授業が始まった……

私は砂希と七絆に少しだけ距離を空けられた
隣の席に腰掛けた。

二人でお揃いで買った星のペンは、さっきの衝撃で割れて使えなくなってしまっていた。
しかも、慌てて教室を出てきたので教科書を間違えて持ってきてしまっている……

そんな焦っている姿が目に入ったのか
先生が私の異変に気づき、仲が良いと思われている砂希に声をかけた

「望月ーー教科書を光野に見せてやってくれるか?」と頼んだ

砂希は迷惑そうな顔でバンッと雑に私のほうに教科書を置くと

「七絆~見せてー」
と私の方から離れた

先生は一瞬、ん?としたような表情を見せたが……再び、何もなかったかのように授業をはじめた。

私の後ろからは
「教科書くらい持ってこいよ!バーカ」
とクスクス笑うクラスメイトの罵声が響いた

この時の私は、そんな先生にすら小さな悪意を感じてしまった……

3時間目の授業中ずっと、私はできるだけ
周りに意識を向けず自分だけに意識を集中させるようにして外界の嫌な雑音をシャットアウトしていた。

この方法は辛い空間から自分を守るために
得た一つの技のようなものだ……

だけど、授業中は自分が唾を飲み込む音すら不快で仕方なかった

終わりの鐘が聞こえるまで、水中に顔を突っ込まれて息が出来ないような感覚に近い……

キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン

プハッ……やっと息ができる、私は大きく息を吸い込んだ

「砂希ちゃん、教科書ありがとう」

「………。」

バッと、私の手から教科書を奪うように
受け取ると……
砂希は七絆と二人でスタスタと教室に戻って行った。

……大丈夫……大丈夫……

再びうるっと目に涙が浮かびはじめたので
私は慌ててトイレにかけ込んだ……

焦っていたこともあり、涙を拭う物を何一つ持っていなかった私は仕方なくティッシュの代わりにトイレットペーパーを使うことにした……

トイレの中はどこかジメッとしてて
薄暗く、少し鼻につく悪臭を感じる……

こんな場所でさえ教室にいるよりは
ずっと心の落ち着く私の安寧の地だった

この安寧の地は、これからずっと長く

私がお世話になることになる……

無題1479

第2話~冬休み~

今日から待ちに待った冬休みだ

あの地獄のような教室の扉をしばらく開けずに済むと思ったら急に心が軽くなった……

私の家は、祖父、祖母、父、母、妹と弟と
私の7人暮らしということもあり
家に居る時に寂しさや孤独感を感じることが
なかったことは、何よりの救いだ。

今日は早朝から、光野家総出になって
お正月に食べるお餅を作っていた

これが毎年の我が家の定番行事で

長年使い込んだであろう傷だらけの杵と臼で

「よいしょっ」
ポンっ
「よいしょっ」
ポンっと

祖父が餅をつき、祖母がひっくり返す息ぴったりの技をお披露目する

真っ赤な椿が雪の隙間から顔を覗かせる庭で
家族は口から白い息を漏らしている

「おばあちゃん!かわって!かわってー」と言って、私の1つ下の妹、3つ下の弟は遊び半分で餅をついた

そんな、家族総出になり苦労してつき上げたお餅は……それはもうほっぺたが落ちるほど

格別に美味しい!!

甘塩っぱさが病みつきになる、砂糖醤油につけて食べるも良し!
定番のきな粉や餡子をつけてお菓子感覚で

食べるも良し!
サッパリ大根おろしと醤油で食べるも良し!
冬休みはずっと家族皆でお餅三昧の日々だ。

小学生の頃は、妹達と一緒に進んで餅つきに
参加していたが……

今年は少し遠目にその光景を眺めながら
つきあがったお餅を黙々と食べていた……

「お姉ちゃん!お餅美味しい?」
妹がそっと私の隣に座った

「美味しいよ!耀(ひかる)も食べる?」

「はいっ」と言って
食べかけのお餅を半分に切って渡した

「ありがとう!」
そう言って妹はホクホクと熱そうにしながら口を動かしていた

「耀だけ、ずるい!僕もちょーだい」
と弟の守(まもる)も隣に座ってきたので半分になった食べかけの餅をさらに小さく切って渡した

「ありがとう!」
そう言って弟はニカッとはにかんだ……

それを見ていた母が
「あんた達!そんな小さなお餅取り合わなくてもこっちにいっぱいあるでしょっ」

父も口を開いて
「お姉ちゃんのお餅そんな小っこくなった

じゃないか!可哀想に」と言いながら両親は笑っていた。
「お姉ちゃんが食べてるのが良い!」
「ねーーっ守!」

「うん!」
妹と弟は、私の持っているものをいつも欲しがった……
そんな二人の存在が去年よりもずっと可愛く愛おしく映った……

来年……妹の耀は私と同じ中学に入学する
そう思うと、一抹の不安が頭を過ったが……

私は「お姉ちゃん」と呼ばれて育ってきた誇りと、この妹や弟の眼差しをどんなことがあっても何をしてでも守りぬいてみせると心に誓った。

たった、1年先に生まれただけのただの姉で、姉らしいことなど特にしてあげた記憶はないけれど……

それでも、妹や弟の信頼を裏切りたくない……そんな風に思った。

「お姉ちゃん!あれ取って」
妹が屋根に連なった氷柱を指さした

「まかせて!まかせて!」

「はいっ」

私には、守るべきものがある

…………だから、きっと、きっと…………

…………大丈夫…………

無題1479





第3話~鏡~
冬休みに入って時間のできた私は部屋で鏡を手に自分の顔を久しぶりにじっと見つめていた……

なんだか、顔色が悪くなったし

肌荒れがひどいな……

……醜い……

私は、ふと砂希ちゃんの顔が過った

……砂希ちゃんが羨ましい……

見た目だけじゃない、彼女は明るくて
お洒落で勉強だって出来るし、運動神経も
悪くない。

それに比べて私は……

……何も良い所がないじゃないか……

人に合わせることしか能のない

何の魅力もない人間だ……

そんなふうに鏡を見ながら私は
あることに気づく

……だからか……
……そうだ、だから私は……

……皆から嫌われる存在になったんだ……

そう、ふと自分の中で核心に辿り着いた

だったら、私が砂希ちゃんから見て尊敬できる人間になれば……

一つの答えのようなものが浮かび上がると
同時に、私の中には小さな希望が芽生えはじめた……

昨日と何も変わらない空が
今日はいつもより明るく綺麗に見える

まるで、今まで眠っていた何かが
目覚めたように……

その日から3学期に向けて遊ぶ間も惜しんで
テスト勉強に明け暮れ……そして体育の時間
のバレーボールで皆の足手まといにならないように毎日練習を積み重ねた。

家の壁を使って、何度も何度もレシーブや
サーブの練習をしていると自然に腕に紫染みた痣ができた。

だけど、痛くはなかった……

だって、今の現状よりも辛く
苦しいことなんて何もないのだから……

それよりも、現状を打開できるかもしれない微かな光が見えた喜びの方が増していた。

私の後ろでは、妹や弟がマネをするかのようにバレーボールを使ってキャッキャッと遊んでいる、その隣でただ黙々と真剣な眼差しで

練習に明け暮れた。

必死で頑張った後の汗は、清々しくて気持ち良かった……

……私は変われる……

「雪が降ってきたから、もう止めなさい!
風邪引くわよー」というお母さんの声が耳に入ったが……

「もう少ししたら入るー」
そう言って、ひたすらボールと向かい合った

妹や弟は飽きたらしく、玄関の石段に座りながら母が入れてくれたホットココアを飲んでいた。

二人は口を揃えて
「お姉ちゃん、最近あんまり一緒に遊んでくれないね」と母に小さくぼやいていた。

もうすぐ、冬休みが終わる……

諦めが悪いと笑われるかもしれないが……

私はまだ
「あの頃に戻りたい」
その一心で自分と戦っていた……

毎年、年越しは家族皆でぎゅうぎゅうに潜り込んだコタツの中で過ごす……

「明けまして おめでとう」
そんな、年賀状が誰からも届かないことを
家族が心配しないように

朝一番に郵便受けで待機して
「私の分はもう引き出しにしまった」と嘘をついた

なんとなく、気づいていただろうが
家族は知らない振りをしてくれていたのかもしれない……

もうすぐ冬休みが終わる

少し新しく生まれ変わったような気持ちで
年を明けた……

祖父がコタツの中で大好きな甘酒を飲みながら3人にお年玉を配る

私は、使うことなく未来の為に貯金することにした……

「好きなモノを買いなさい」

「おじいちゃん、ありがとう!」

……私が今1番欲しいものは……

……明るい未来です……

無題1479

第4話~3学期~

制服姿の私は、しつこいくらい見慣れた教室の白い扉の前に再び立つ……

そして、少し大きく息を吸ってからドアに手をかけた……
その時!

「ガラッ」という音と共に

私が開ける前に内側から扉が開いた

そこには……

久しぶりに顔を合わせる砂希の姿があった。

私は一瞬、驚いたものの

「おっ、おはよう!砂希ちゃん」
と言いながら微笑んだ

「…………。」

「おはよう!」

……えっ!……

私がずっと待っていた言葉がそこに響く……
そうして、次の言葉を砂希にかけようと
口を開こうとした時
砂希はスッと私の横を通り過ぎて
後から教室に入ってきた美雨に喋りかけた

「美雨ちゃん!久しぶりだねー」と

少しテンションの上がったような高い声が
吹き抜けた

……あぁ、そうか……

……そうだよね……

二人は少し立ち止まった私を、道路の真ん中に捨てられた石を見るような目つきで睨むと
教室の扉をバンっと強くしめて、廊下で立ち話をはじめた。

私は、そのまま黙って席に座り、また肩の力を落とした

……美雨ちゃんに言ったのか……

……そっか、そうだよね……

……また、期待しちゃったな……

教室の空気は以前と何も変わっていない
私の心がまたギュッと締め付けられるように痛む……

……大丈夫、まだこれからだ……

キーンコーンカーン
キーンコーンカーンコーン

冬休み以前の私は、休み時間になると砂希ちゃんのほうに駆け寄って何とか会話に入ろうと必死だったがそれを止めることにした。

私はひとりポツンと席に座り、不安で逃げ出したい気持ちになるのを我慢して次の授業の予習をすることにした……

砂希達のグループの方から
「今日はアイツ来ないねー」

「アハハッ」
という、笑い声が聞こえた

そんな風に時間は流れ、4時間目の
体育の時間になった。

女子と男子に分かれた体育館では、バレーボールのチーム対抗戦がはじまった

私は、砂希と七絆と美雨達4人グループと一緒になり7人で交代で試合に参加した

私はチームの誰かが疲れた時の補欠のような
役割だが、他の子と違い少しのミスでも冷たい眼差しで睨まれた……

特に運動神経の無い私にとっては、試合の度に集団でボールを投げつけられるような心の痛みを感じた。

だけど、今回は違う……
私もあれだけ練習したのだから
きっと、大丈夫……

私は、コートに入ってその時を待っていた……

私の方にボールは力強く飛んでくる

「バシッ」
そんな効果音を響かせながらボールは
私の手首に当たる

「砂希ちゃんっ!!」

偶然にも、高くきれいに上がったボールは

トスを必要としないくらい的確な位置でくるくると舞った……
そんな、ボールを捉えるように砂希は
綺麗なフォームでビシッとアタックを決めた

「わあぁー!ナイスアタック砂希ー」
そう言って他のメンバーは砂希を囲った

私の心臓はまだドクンドクンと
高鳴っていた……

……初めてあんなに速いボールが受け止められた……
手首はジンジン痺れていたが、不思議と痛くはなかった。

「キュッ、キュッ」と体育館シューズが擦れる複数の音と共に
「だけど、アイツも珍しいね」と

ヒソヒソ聞こえてきた。

私は、今日のバレーの練習試合では1度も
周りから鈍臭いとか役立たずとかいう野次を
飛ばされることはなかった

小さな自身が少しずつ何かを変えている……

そんな気さえした……
動いて、体がホカホカしたせいか少し心の温度が上がった……

今なら砂希ちゃんと昔のように
喋れるような気がする……

私は少しずつ砂希ちゃんの方に
近づいていき……

そして、出会った時と同じように私から

「少し、疲れちゃったねー」と話しかけた

砂希は、ゆっくりとこちらを振り向いた……
無題1479

              ……続く……