体験記 コミュ力向上するまでの道-生きづらさと共に 第11章

体験記 第11章 心を食べて、心で生きる






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第1話~夕食から生まれたもの~

私達は赤西君の黒いミニバンに乗せてもらいいつもサークル練習が行われている古民家
から、車で数分の場所にあるカフェレストランに向かっていた……

「すごく、良い車だね!赤西君ってまだ
大学生だよね?」

「そうっすか?
まぁ車が好きなんで、アルバイトしながら
無理して知り合いから中古を安く買い
ました!維持費が大変ですけどねー」

「アハハ!そうだろうね」

「まぁ来年は就職するんで、その辺りは
何とかなるかと!」

「うんうん!」

「三爽さんは車乗らないんですか?」

「僕も普段の会社通勤には乗ってるけど
極力休みの日は歩くようにしてるんだ!

「どうしてっすか?」

「もう26歳だし……
そろそろ健康面も考えた方が良いかなーと

「ブハッ!!まだ早いっすよ!それ」

「いやいや、もうアラサーだしね」

「三爽さん良い父親になりそうっすね」

「アハハ」

そんな前の席に座る2人の会話を後部座席
から静かに聞いていると、車はしばらくして目的地のカフェレストランの駐車場に停まった……

店内は夕食の時間にはまだ早いという事も

あり空いていてすぐにテーブルに案内された……
4人掛けの席に赤西くんが先に座ると、その隣に三爽さん……赤西君の前に私……三爽さんの前に高坂さんが座った。

数分後……

テーブルの上には皆でシェアできる量のサラダにピザ、パスタなどと私のアイスティー、赤西くんのメロンクリームソーダ、三爽さんのオレンジジュース高坂さんのブラックコーヒーなど一通り注文の品がズラッと並んだ……
それを見ながら私は、ドリンクのチョイスにどことなく個性が出ているなと感じて少し可笑しくなった。

4人は一斉に「いただきます」と口を揃えて黙々とテーブルの上の料理を食べはじめた……

……目の前に男性が居ると、なんだか落ち着いて食べれないな……
そんな風に少し緊張しながら食べたピザは
あまり味が良く分からなかった……

「光野さん!」

「あっ、えっ!何?三爽さん」

「服の袖にトマトソースが付きそうだよ」

「あっ、ありがとう」
私がバッと腕を上げて袖が汚れなかったか
確認しようとした時、テーブルの上の水の
入ったグラスに当たりひっくり返しそうになった

「おー危ない危ない!」
三爽さんは落ち着いた声のトーンで呟いた

「わっ!ごめんなさい!」

ギリギリの所で隣に居た高坂さんがグラスを押さえてくれた

「あっ!!高坂さん、すみません」
私が少しテンパっていると……

私の過去のコミュ障ぶりを知っている赤西君が「落ち着け!光野真白」と冗談っぽく突っ込みを入れた
三爽さんはクスクス笑いながら
「光野さんって下の名前、真白ちゃんっていうんだね」

「あっ、うん」
私は少し顔を赤くして答えた。

「皆からは、何て呼ばれてるの?」

「長峰さんとかからは、白ちゃんって
呼ばれてます」

「そうなんだ!じゃあ僕もそう呼ぼうかな」

「三爽さんは?」

「んー僕は特にあだ名は無いかなー」
「何か良いあだ名があれば、皆につけて欲しいな!」

「うーーーん」
一同、真剣に頭を抱えて悩んだ。

……私はふと、初めて三爽さんを見たときに感じた爽やかなイメージが頭から離れずポツリと自分でも無意識のうちに

「……爽くん?」と口走っていた

……あっ、急に変なあだ名つけちゃった!……
と私が一人で慌てふためいていると

「それ新しいね!良いと思う!!」
とすんなり三爽さんは受け入れてくれた

「本当に?……」

「うん!じゃあ爽くんで今日から皆さん
よろしくお願いします」と礼儀正しくお辞儀した

「あっ、高坂さんはあだ名とかあるの?」
三爽さんはニコッと前に座る高坂さんを
見ながら笑顔で尋ねた

「……私も長峰さんからは高ちゃんと」

「こうちゃんも良いね、可愛い!」

高坂さんは一瞬、三爽くんの方に視線を向けると……再び手元にあるパスタを食べはじめた

「そういえば、赤西君って長峰さんから
あだ名で呼ばれてないよね?」
私はふと疑問に思ったので尋ねてみた

「あー、それはあれっす」

「あれ?」

「俺がまだ、サークルに入りたての頃、長峰さんから変なあだ名つけられて怒ったから」

「アハハ、何てつけられたの?」

「…………」

赤西君は一瞬沈黙するとボソッと呟いた
「……ちゃん」

「えっ?」

3人とも珍しく照れる姿の赤西君を興味津々
で見つめている

「赤ちゃん…」

「あかちゃん?」

「ぷっ、アハハハハ」
私と三爽くんは爆笑して、高坂さんも控えめ
に少し笑った。

「それは、赤西君も怒るよね」
三爽さんが笑いながらフォローを入れたが

「だから、俺はもう赤西君で良いっす」
そう言って、少しムスッとしたような顔をした

「俺は皆さんより年下なので、今のまま
さんづけで呼ばせて頂きます」

「態度は年下じゃないから、ある意味
丁度良いかもね!」
私はそう茶化すように言って、サラダの上のゆで卵を食べようとしたが……

先にフォークでブスッと刺して赤西くんは
横から取り上げるようにそれを食べた
「あっ!!こらっ」

「真白さんは割と鈍いっすよね」

「アハハ、2人は仲が良いんだね!」
そう言いながら、三爽さんがもう一つだけ
残っていたゆで卵をそっと私の小皿に乗せてくれた……
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第2話~些細なきっかけ~

4人が和気あいあいと夕食を摂っていると、なんとなく自然な流れで「音楽を始めたきっかけは?」という話題になった……

一番はじめに質問が振られてきたので、私は少し悩んでから……

「私は、えーっと」

「いろいろあって……趣味を通して自分の
時間を作りたかったのもあるし……」
「うんうん」
「コミュ障を改善して友達が作りたかったからっていうのもあるかな……」
「なるほどね!」
「それに、歌もギターも興味があったし」とそのまま思ったことを言った。

いろいろあってという言葉が一瞬気になったようだが……あえてそこは誰も問いかけてこなかった。

「サークルに入りたての頃は真白さん、

緊張で震えすぎて違う意味で歌う時にビブラート効かせてましたよね?」
そう言って、赤西くんはまた意地悪そうな顔をしながら私の顔色を覗う

「赤西くん、当初はこんなキャラじゃなかったのに」

「どういう意味っすか?」

「そのままの意味だよ」

2人は終止睨み合っていた……
そんな2人の気を逸らすように三爽さんは
質問を振った
「赤西くんはどうして

このサークルで音楽を?」

「あー……。俺はなんか大学のサークルだけだと自分の世界が広がらないような気がして」

「うんうん」
「いろんな年代の人とも繋がりたいなって
思ったのもあるし……」
「うんうん」
「エレキギター始めたのをきっかけに
このサークルに入ってみたら
いつの間にかギターより歌う方がメインに!みたいな感じっすね……」

「なるほどね!

大学生でわざわざ社会人サークル入っている子も珍しいなって思ってたんだ」

「良く聞かれるっす」

……意外と若いのにいろいろ考えてるんだな

赤西くん……私がじっと見てると少し照れたように「何じっとみてるんすか」と怒ったような顔をした

4人の間には、また少し沈黙が続き

食事の音だけが静かに響く……

「じゃあ、高ちゃんは?」
三爽さんからの唐突なあだ名呼びに少し困惑するような表情をしたが

「私は、ベースが好きだったので……」と
ボソッと呟きながら話を続ける

「うんうん」

「ベースって……一人部屋の中でずっと
弾いていても他のメインとなる楽器がないと曲として成り立たないので……」

「あー確かにそうだよね!」

「だけど私、そんなベースが好きなんです」

高坂さんがいつもより口数が多いことに
私は驚いた。

「周りの楽器と合わさることではじめて
深みのある低音を際立たせてバンド演奏を
支える柱のような存在に生まれ変わり
単体では目立たない、わき役のイメージの 反面……バンド演奏の心臓部と言われるほどに重要ポジションを担っている………」

「なるほど!」3人は同時に頷いた

「………私、少し喋りすぎましたね」

「そんなことないよ!普段喋らない
高坂さんのベースに対する熱い気持ちが
今日はじめて聞けて嬉しいよ!」
そう言いながら、私はなぜか少し瞼の裏に
熱いものが込み上げてきた……

それを紛らわすように三爽さんに話しを
振った……
「そういう、さ……爽くんは?」
私は少しドキドキしながら私が提案した
あだ名で呼んでみた

「僕は……」

「うーーーん」

「あんまり皆みたいに深い理由はなくて……」

「ただ若い時に女子にモテたくて始めた
ギターがすっかり趣味になったってだけで」
頭を少し掻きながら、恥ずかしそうに笑った

「えーっ!」

「1番意外な理由!!」

第一印象のそのできた人柄から、彼は仏様の
ような人に映っていたので……
三爽さんも学生時代は普通の男の子だったんだなと思ったら急に少し親近感のようなものを感じた。

「えっ意外ではないよね?
普通の男子学生なら」

「俺も実はきっかけはそれっす!」

私は、間髪入れずに
「アハハ!赤西くんは意外じゃないけどね」
と突っ込んだ

「どういう意味だよ」

4人はそんなやり取りをしながらずっと
笑っていた……

窓の外を見ると、入る前はまだ明るかった空が真っ暗になり星が散らばっている

……楽しい時間ってあっという間に
過ぎるんだな……

そんな私達は、帰り間際に音楽サークル
「始まりの音♪」とは別に、新しいチャットグループ「馬鹿になるほど幸せだ☆」という
トークルームを立ち上げた

高ちゃんは小さな声で
「これ、私も入らないといけません?」
と尋ねてきたので
「絶対参加で!」と3人は一斉に口をそろえて言った。

彼女は最後までグループ名が気にくわない

様子だった……
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第3話~グループトーク~

家に帰るとさっそくチャットグループ
「馬鹿になるほど幸せだ☆」に通知が
来ていた。

馬鹿になるほど幸せだ☆(4)

〈爽くん〉今日は皆さん!ありがとう
ございました☆とてもお腹いっぱいで
幸せな気分です。゚(゚´ω`゚)゚。

〈赤西くん〉俺も楽しかったっす♪
また、行きましょ~(´-ω-`)

〈高ちゃん〉お疲れ様です。

〈私〉うんうん!また行こうね٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
お休み~(-_-)zzz

私にできた初めてのグループ……
…………夢みたいだ…………
………ずっと、ずっと憧れていた仲間……
……繋がりができた……
………私、今が人生で1番幸せかも…………
そう、思いながら布団に潜り込んだ。

……今度こそ、絶対に失わないように
大切にしよう……

そんなことを思いながら、ゆっく瞼を瞑った

その夜私は、学生時代に戻った夢をみた……

窓から白い光が差し込む教室
響くチャイムの音
何も描かれていない黒板
隊列を組む四角い机
恐れることのない白い扉
そこに、新しい制服を着て……
一人佇んでいた……

次の日から1週間は仕事に打ち込んだ
心の病から立ち直り、フリーターとして近くの職場で働くようになっても……
仕事のストレスから体調不良になることは
時々あった……
だけど、今の私には週末の楽しみがある……

一度ズタズタに切り裂かれ崩れた心は
もう、真っさらには戻らない……
新しく詰め替えられるモノなら良いが
生まれた時からずっと“それ”は変わらない。

切り口を縫い付けながら痛みが届きにくくなるように少しずつ頑丈にすることは可能でも、同じ場所を狙うように傷つけられた時そこにダメージを受けやすい状態なのは変わらない……心は代替が効かない。

だけど、一生懸命そんな自分と向き合って
上手く息抜きをしながら自分のペースで
頑張っていく……ただ、それだけだ。

昔、まだ私がひどく心を病んでいる時……
祖父の「お年玉を好きなモノに使いなさい」という言葉に対し
今欲しいモノは明るい未来ですと願った」
その頃からずっとコツコツ貯めてきたお金をここ最近自分の為に少しずつ使いはじめた。

大きな買い物をすることは極力避けていたが
どうしてもアコースティックギターだけは
欲しかった……
まだ、そんなに上手くは弾けないが少しずつ
練習の成果が見えてきたような気もする……
仕事で上手くいかない日はギター練習をすることで気を紛らわせた……

そんな葛藤をしながら迎えた
花の金曜日……

「馬鹿になるほど幸せだ☆」のチャット
グループメッセージが届いた

〈赤西くん〉今日から夏休み!暇だ(´-ω-`)

〈爽くん〉何か夏らしいこと皆でできたら
良いね~(´▽`)ノ

〈私〉バーベキューしたい!(☆。☆)

〈赤西くん〉良いね!BBQ♪♪じゃあ
真白さん企画よろしくっす!

……えっ!私が企画するの!?と一瞬戸惑ったが、この機会を逃したら一生経験できない
かも…と思ったので、ひとまずやってみる
ことにした。

赤西君には前に2人で喋った時、私の過去をいろいろと打ち明けていた……
自分は人に合わせてばかりで嫌になる……
一人で何も出来ない人間だから変わりたい……
そんなことも言っていたような気がする。

〈私〉企画、頑張ります!

〈爽くん〉何か困ったことがあったら
いつでも相談してね!

そんな、3人のやり取りに高ちゃんから既読はつくものの……全くトークに入ってくる様子が無かったので……待ち兼ねて、私から送った。

〈私〉高ちゃんはどうかな?

〈高ちゃん〉私も参加します。

案外、皆のやり取りをリアルタイムで見ていたようで速攻返信がきた

〈赤西くん〉じゃあ、また詳細決まったら
連絡よろしくっす♪

〈私〉了解です( ^o^)

そんな、やり取りを終えたあと、私は急いで
この辺りのバーベキュースポットについて
調べはじめた。
なんせ初めてのことだけに、何をどうしたら良いのか全く分からない……

食材とかはどうしよう?
皆で持ち寄ったら良いのかな……
器材とか予算とかどうしよう?
ってか、バーベキューって網の上でお肉を
焼いて皆で突くあれだよね?
私は一気に考えすぎて、一瞬頭が爆発しそうになった……

思い返せば、今まで誰かの為に何かを企画したことなんて一度も無かった……

誰かが右だと言ったら私は左に進みたくても
まぁ、いいやと右についていく人間だった
から……

だから、自分が企画者の立場になって
こんなに大変なんだということにはじめて
気づけた……
そういう意味でも、一から人を集めて音楽サークルを作り演奏会なども企画している長峰さんはすごい人なんだなと改めて実感した……

そんな風に一人部屋の中で慌てふためいていると……
私のスマホにメッセージ通知が表示された。
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第4話~今この瞬間~

それは、海くんからのメッセージだった

〈海くん〉久しぶり♪元気にしてる?

〈私〉元気は元気だけど、ちょっとピンチ

〈海くん〉何だそりゃww

〈私〉音楽サークルで知り合った友達に
バーベキューの企画を頼まれちゃって

〈海くん〉白ちゃんって超インドアじゃなかった?

〈私〉まぁ、そうなんだけど(..;)
だから困ってるというか……

〈海くん〉俺も誘ってくれ(´V`)♪

〈私〉うんうん!人数多いほうが
楽しいもんね♪来て来て~

〈海くん〉よっしゃっ♪

〈私〉頑張らないとね(゜-゜*;)オロオロ

〈海くん〉何か困ったことがあったら
いつでも言って♪

〈私〉ありがとう(*´∀`*)ノ

………せっかくなら、そうだ!愛美ちゃんも
誘って見よう!

そんなこんなで、一人あたふたしながらも
人生初の光野真白・主催バーベキュー
を迎える為、着々と準備に取り掛かった。

そんな様子を見ていた祖母が少し今までとは違う私の行動が気になったようで

「白ちゃん、どこか行くの?
最近お友達がたくさん出来たようで
おばあちゃんも嬉しいけど……」

そう何か言いたげな表情で私を見た

おばあちゃんは今までずっと家に隠っていた私がちょくちょく外出するようになったので少し心配しているようだ……

「おばあちゃん、大丈夫だよ!
音楽サークルで知り合った友達とバーベキューするだけだから!」

「ばーべきゅう?」

「あっ、えっと、網にお肉を乗せて自分達で焼いて皆で食べるの!」

「ほぉー!それなら家の物置きにも焼く時に使える物が仕舞ってあるよ」

「えっ!家にもあるの!?」

裏庭にある物置小屋まで行くと
おばあちゃんは「よいしょっよいしょっ」と言いながら小屋の奥から何か取り出してきた

「おばあちゃんも昔はよく使っていたよ」

「えっ、おばあちゃんってアウトドアな人
だったんだ!?」

少し驚きながら、私が見下ろした先にあったのは、埃をかぶった白い七輪だった……

「……。」

「おばあちゃん!それ、ちょっと違うよ」

「そうなの?焼けたら何でも一緒でしょ」

「いや、まぁそうだけど……」

少し、しょぼんとしたおばあちゃんを見ていると何だかもう七輪でも良いかという気持ちになってきて
「おばあちゃん、ありがとう!
それ持ってくよ」と言ってしまった。

おばあちゃんは少し満足気な顔をして
家の中に入っていった……

……焼けないことは確かにないかな?……

そんな風に思いながら、私が年季の入った
七輪を少し確かめるように持ち上げてみるとヒビの入った底からパカッと呆気なく自然に割れてしまった……
余程使い込まれて今まで物置きに眠っていたのだろう……

割れたそれを見ながら私はふと、思った。

人もまたいつかは朽ちていく
それは、どんな人間も平等で……

だからこそ、今この瞬間
思い残すことのないように…

輝きを纏いながら……
一生懸命 生きるんだ……

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