体験記 コミュ障女子 引きこもりからの脱出 生きづらさを背負って-第12章

体験記 第12章 心を食べて、心で生きる

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第12章~人生で1番楽しい夏~

《目次》↓クリックで飛びます
第1話~はじめてのバーベキュー~

第2話~海風~

第3話~夏の夕日~

第4話~光り耀く~




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第1話~初めてのバーベキュー~

ジーージーージーージーー
という毎年鬱陶しく感じていた蝉の鳴き声が今年はハイテンションな夏歌のイントロのようにさえ聞こえる。

「行ってきまーーす♪」
そう、明るい声で家族に言い残すと
玄関の扉を閉めた

今日は待ちに待った人生初バーベキューにして、人生初主催のイベント!(かなり無謀な)挑戦の日!

待ち合わせ場所は、この近くにある海辺のバーベキュースポットだ。

私は数日間……いろいろと散々迷ったあげく
結局、スマホの検索機能を使って調べた
『近場の人気バーベキュースポットランキング1位』の、バーベキュー機材が一式レンタルできて、食材も準備してもらえる場所を予約することに決めた。

……だいたい最終的にはいつも
無難な選択に落ち着く……

そんな、人生初バーベキュー当日……
少し早めに待ち合わせ場所の現地に向かい

バーベキュー場の下見を終えると、私は入り口で係員の人からいろいろと説明を受けた……
そんなこんなしている内に、メンバー全員が揃っていた。
「お待たせ~♪白ちゃん今日はありがとう」
そう明るいテンションで愛美ちゃんが1番に
私の元に駆け寄った

「うううん!こっちこそ」

「今日は楽しもうね!」

「俺、楽しみすぎて昨日の夜あんま寝れなかったよ!」と海くんも少し後ろからゆっくり歩いてきた

「海くん、久しぶり!」

「お~愛美ちゃん数週間ぶりだね!」

私と海くんと愛美ちゃんは初めて会った遊園地以来、最近よく3人で遊んでいる……2週間前も3人で食事に行って喋り明かしていた

「真白さん!今日はバーベキュー日和になって良かったっすね」
そう言いながら、駐車場で合流したのか残りの3人が一緒にやってきた

「うんっ!本当に♪」
私は一面ブルーに染まる眩しい空を少し見上げてから、皆の方を見た

「………………。」

愛美ちゃんと海くん、そして音楽サークルの友達の間に気まずい空気のようなものを感じたので……私は焦るように

「あっ、偶然出会いの場で一緒になった縁で友達になった愛美ちゃんと海くんです」
音楽サークルの仲間3人に向けて簡単に紹介した。
2人はニコッと笑いながら軽く挨拶をする

「で、こちらの3人が私が通う音楽サークルの
友達の赤西くん、爽くん、高ちゃんです」

「おー君が噂の赤西くんか!」と海くんは
笑顔で喋りかけた

「噂って、真白さん何すか?」

「ちょっと、海くん!!」

「生意気な年下のボーカルが居るとか
そんな感じっすか?」

「違うよね!!すごく歌の上手い年下の男の子が居るから、私ももっと練習しなきゃって言ってたよね?白ちゃん♪」

「そうなんっすか?」

「違うっ!もうその話しは良いから

早くはじめよう!!」
私は、話しを紛らわすようにスタスタと
バーベキュー場に向かった

「きっと、照れてるんだよ」
爽くんが話しを掘り返すように言った

「そうっすねー」

愛美ちゃんは高ちゃんの方に少し寄っていくと
「ベースの高坂さんだよね?白ちゃんから
少しだけ聞いてるよ!」

「あっ、えっと……はい」

「同じ女の子同士だし仲良くしてね」

「あっ、はい」

「海くん見た目ちょっとチャラいし、いかついけど恐い人じゃないから大丈夫だよ」

「そうだよ~、高ちゃん俺ら同い年だし
仲良くしよう!!」

「海くんはこれ以上高ちゃんに近づくの禁止!!」
愛美ちゃんはそう言うと、高ちゃんを守るようにして肩を持ちながら軽く睨んだ

「悲しいなー俺~

「アハハ、大丈夫っすよ俺もはじめは
高坂さんにかなり避けられてたんで」

「そうなの?確かに赤西くんはちょっと
俺と似た匂いするかも」

「どんな匂いっすか?」

「爽くんには無い匂い」
ちらっと海くんと赤西くんは爽くんを見た

「えっ、僕だけ何か違うの?」
爽くんは不思議そうな顔をしながらニコッと屈託の無い顔で笑った

二人は顔を見合わせると、ガシッとお互いの
肩に手を回し

「俺、なんか兄さんと初めて会った気がしないっす」

「だろう、弟よ」と

ふざけたノリで盛り上がっていた

爽くんの頭上にはハテナ?が泳いでいる……

「爽君って本当にあの二人と違って、良い人オーラ全開だもんね」と愛美ちゃんが言うと

「そうかな?」と

少し照れるように笑った

愛美ちゃんと海くんが元々社交的なことが救いとなり、6人は出会ってすぐに打ち解けることができた。

私はホッと一息をつくと

……さぁ!海の音が響く浜辺をバックに
人生初のバーベキューの幕開けだ!!……
と気合いを入れ直した。

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第2話~海風~

バーベキューに使う炭を海くんは手慣れた
手つきでコンロの中に放り込むと火を起こした。

炭は白い煙を出しながらジンワリと赤く灯る

「よし!後は具材を乗せるだけ♪」
そう、言いながら額の汗を拭った

「海くん!おでこちょっと黒くなってるよ」
と私は指差した

「おっ!まじでー」

「白ちゃん、ちょっと拭いてくれる?」と
にんまり笑った

「タオル首にかかってるじゃん!」

「冷たいね~白ちゃんは」

「じゃあ、高ちゃん拭いて?」と高ちゃんの方に擦り寄った

「えっ……」
かなり戸惑ったように硬直している彼女を
庇うように愛美ちゃんが

「私が拭いてあげるよ♪」と言って

まるで雑巾を床にこすり付けるようにグリグリ力強く拭き取った
「イタタタッ!愛美ちゃん力強っ!!

「馬鹿な人はほっといて」

「さぁ、焼きはじめよ!」と
私は予約しておいたバーベキューセットの食材をトングでひとまず網に乗せていった

「俺が、苦労して火を起こしたのに~」
そう言いながら、今度は赤西くんの隣に大人しく座ると……

「もう、俺の身方は赤西くんだけだよ」
とイジけていた

「兄さん、ドンマイっす」

そんな二人のすぐ横で、私が網の上に乗せた
ピーマンが物凄い勢いで燃えはじめている……

「ヤバイ、ピーマンが焼死しそう!」
私があまりの火の勢いに怖じ気づいてボーッと立ち尽くしていると…

隣に居た爽くんが、そのメラメラと燃え盛る炎を気にも留めず死にかけたピーマンを救出してくれた。

「さすが、爽くん!ありがとう」と
それを見ていた愛美ちゃんがニコッと笑う

「ちょっ、愛美ちゃん
俺と爽くん扱い違いすぎない?」

「そうかな?
じゃあ、これあげるから許して」

そう言って、爽くんの取り皿に乗せられた
焼死したピーマンを箸で摘まむと海くんに差し出した

「アハハハっ」
そんな、皆の笑い声と重なるように浜辺から心地良い風がビューッと吹き込む

バーベキューのメインのお肉は爽くんが
網の上で焼いて、皆のお皿に次々と入れてくれている

私のお皿にも焼き立てのお肉がコロンと
転がった……
人生初バーベキューのお肉……

……ゴクリ……

それを割り箸でゆっくりと口まで持っていく
……
普段から食べているはずの普通のお肉なんだけど……

少し焦げた部分もあるけれど……

そんな焦げすら、ご愛嬌!
いつもよりずっとずっと美味しい!!

そんな風に一人ひっそりとバーベキューの
お肉の味に感動していた……

「それにしても夏だけに熱いねー」
愛美ちゃんはそう言いながら、持っている団扇で煽っている

「よし!そんな時はあれだっ」

「みんなで水着になろう!!」そうニカッと笑いながら海くんが周りを見ると……
シラーッという女子からの冷たい視線が突き刺さる

「いや、冗談です。すみませんっ」

「良いじゃないっすか!せっかく海があるんだし涼みましょうよ」

「……。」

「まぁ、でもせっかくだし足だけとかでも
浸かってみる?」
私はそう言いながら愛美ちゃんの方を
チラッと見た

「確かに!水遊びとか楽しそうだしね♪」

私達は食後の運動も兼ねて、まるで子供時代に戻ったかのように……
全力で砂浜の上で鬼ごっこをしながら浅瀬でバシャバシャと水遊びをした。

一人、全く乗り気ではなかった高ちゃんには
特別に海くんが持ってきた超強力水鉄砲を
渡しておいた……

隅っこでまるで子供達を見守るお母さんの
ように佇む高ちゃんに海くんはパシャッと
軽く水をかけた

「ほら高ちゃん!反撃しないと」と

近くで見ていた爽くんが促す

「………………。」
コクンと頷くと彼女は躊躇することなく
海くんにその武器を使って物凄い勢いで反撃した。

「高ちゃん!ちょっ待って手加減ないなー」
休む暇もなくレーザービームのように発射
される攻撃により焦った海くんは、猛ダッシュで海の中に逃げ込むとバシャーンとひっくり返った。

「降参!!こうさーーん」

叫びながらTシャツだけ脱ぎ捨てて
服のまま海の中を泳ぎ出した

「アハハハっ!高ちゃんナイス」
私がそう言うと、彼女は微かに笑った。

「気持ち良さそうっすね」と言いながら

赤西くんもTシャツを脱ぎ捨てるとバシャーンと海にそのままダイブした。
その水しぶきが私の顔をかすめる……

海面が太陽に照らされて……

キラキラ光っている……

私は裸足のままで少し熱くなった白い砂の上を駆け抜けると、先のことなんて何一つ考えずに、ただ真っ直ぐ目の前の美しい海に飛び込んだ……

そんな私達を、優しく海風が包む……
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第3話~夏の夕日~

散々はしゃぎまわっていると、あっという間に辺りは日が暮れかけていた……

海が夕日に染まり、私達にそれを知らせる

横一列に並んだ6人は、じっとそんな海を眺めていた……

「やっぱり夏のバーベキューって良いよね」
そう、ニコッと笑う爽くんの顔が少し夕焼け色に染まる

「私……人生で初めてのバーベキューを
本当に本当にもう一生忘れない」
雰囲気に飲まれたのか、私はすっかり黄昏気分になっていた。

「アハハッ、真白さん何すかそれ!
ドラマみたいなセリフ」

「うるさいっ!」

「よし!じゃあ黄昏気分になったことだし
夕日に向かって夢でも叫びますか~!!」
海くんがまた悪ノリをはじめた

「じゃあ、白ちゃんからどうぞ♪」

「えっ!」

私はその場に立ち上がり、海の向こうに
叫ぼうと息を思いっきり吸い込んだ
もちろん、周りには他のバーベキュー客も
まだポツポツと居る

「いや、待って冷静に考えたら私アラサー
だし痛いよね?」
そう言って、元通り椅子に座り直した……

「アハハッ、冗談で言ったのに白ちゃん
本気にするから一瞬ドキッとしたよ!」
私は海くんの肩を「パシッ」と軽く叩いた

「で?白ちゃんの夢って何なの?
と愛美ちゃんが話しを戻した

「えっ、いやまぁ…もう忘れようその話題」
私は少し恥ずかしくなり、話しを何とか逸らそうとした。

「高ちゃんも聞きたいって言ってるよ!
ねっ!」

「えっ……うん!」

「愛美ちゃん無理やり言わせてるじゃん」

「そんなことないよね?」
愛美ちゃんと高ちゃんは少し顔を見合わせる

「私も聞きたいかな……」
と高ちゃんもポツリと呟いた

「えーっ。」

「高ちゃんもそう言ってるんだし
皆で聞こうよ!白ちゃんの夢」
爽くんも話しに乗っかってきた。

「ゴホンッ ゴホッ ゴホッ
えーーっと、それでは今から光野真白さんの夢を語って頂こうと思います!」
海くんが司会者のような口調でふざけながら私に「ハイっ」と掌を広げて合図した
「それでは、どうぞ」

パチパチパチパチと皆は拍手しながら
顔がニヤけている

「絶対こんな空気で言いたくないよ!」
と私は逃げる猫のように尻尾を向けた

「あ~あ、真白さん逃げましたねー」

「じゃあ、弟くんの夢でも聞いとく?」

「止めて下さいよ!俺に振るのは」

二人のそんなやりとりをボーッと
聞きながら……

私は心の中で一人……ふと、思った。

……  夢は  今  1つ叶った   ……

夕日が少しずつ水平線に沈みはじめている

……長い間一人眺めていた夕日は
仲間と眺めるとこんな色に染まるんだな……

私は今、変わらない世界で違う景色を感じていた……
一人では、決して見ることの出来なかった
その景色を……
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第4話~光り耀く~

夜になり、辺りはすっかり真っ暗になった……

バーベキューの締めと言えばこれ!と言わんばかりに私は前もって用意しておいた手持ち花火を取り出した

「よっしゃっ!」と言って

海くんが花火に付属していたロウソクを砂浜に突き刺すとライターで火を灯してくれた……

そのロウソクを風から守るように6人は
輪を描いてしゃがみ込む

「じゃあ、白ちゃんから早くつけて!」
と愛美ちゃんが言ったので私は花火を
ロウソクに近づけた。

ボッという音とともに花火は勢いよく燃えはじめ、だんだんと7色に変化しながら光の粒を巻き散らした

「綺麗だね~」
爽くんがそうポツリと呟き、高ちゃんは私の花火をボーッと眺めている

「ヤバイ!ロウソクの火が消えそうだから

次々つけよっ!!」と
海くんが慌てた様子で花火を配る

私の花火から爽くんに、そして高ちゃんへと
光を繋いでいった…

ロウソクは海くんの花火を最後に灯すとフッと風により消されてしまった……

そして、海くんから愛美ちゃん、愛美ちゃんから赤西くんへと光の粒が繋がる

花火は一瞬の煌めきを惜しむことなく
ボオォォッと燃え尽きる

「やっぱり、海辺は風きついっすね」

「ロウソクあんまり役に立たない~」
愛美ちゃんはそう言いながら燃え尽きそうな花火でもう一度ロウソクの火を灯そうとしていた。

「じゃあ、灯りを切らさないように
皆で繋げていきましょ」と珍しく高ちゃんが小さな声をあげた

「そうだ!高ちゃんの火は俺が何があっても守ってみせる♪」と言うと

海くんは透かさず新しい花火を手に高ちゃんから灯りを受けとった

「海くん!つけて」
と愛美ちゃんも二人の横に寄り添うように
花火に光を灯す

「愛美ちゃん!!」と

再び同じように爽くんも続き

「爽くん!!」と
赤西くんもその後に続いたので

私も真似るように傍に寄ると

「真白さんにはあげれないっすね」と

フィッと背中を向けられてしまった。

「ちょっ!なんでよー」と

私が怒ると皆、一斉に笑った。

真っ暗な夜の海辺に舞う蛍のように
ポッと6つの灯りが泳ぐ中、絶え間ない笑い声が波の音と共に響いていた……

この夏は、私の人生で1番光り輝いた
そんな時間だった……

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