体験記│恋と音楽は人生を彩る-生きづらさを背負って│第20章

体験記│第20章 心を食べて、心で生きる

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第20章~ギターと恋の歌~

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第1話~友情~

第2話~悩み~

第3話~後悔~

第4話~この歌よ届け~

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第1話~友情~

川辺に座る二人を春風が包む……

そんな温かい風に後押しされるように
私がこの想いをに口に出しそうになった……
─その時、
「ガシャーン!!!」という大きな音が

私達の背後から鳴り響いた

二人が驚いて振り返ると、そこには河川敷を自転車で走っていた小学生くらいの男の子が激しく転倒してうずくまっていた

「あっ、大丈夫かな?」と私が爽くんに声をかけようとした瞬間には、彼はもうすでに
倒れた少年めがけて一目散に駆け寄っていた

「大丈夫?怪我はない?」

「うん、大丈夫!」
そう言って、少年はすくっと自力で立ち上がった。

「そっか、良かった」
爽くんは倒れた自転車を起こすと

「気をつけてね」と笑顔で少年に
手を振った。

私も後から急いで駆けつけたが、あまりに急な出来事だったので彼の後ろで傍観することしかできなかった……

それと、同時に私は自分が少し恥ずかしくなった……

彼は今みたいに子供やお年寄り、動物、それに植物までにも優しい人だ……
この前のお花見の時も、私達が座るシートを敷くのにタンポポを潰さないようにと気遣っていた……

そんな風に、彼が優しく接しているのは私だけじゃない……

私にとって爽くんは特別でも
彼からしたら私はその他大勢のうちの一人……

そして、友達なんだ……

それなのに……もし、私が今ここで彼に告白なんてしてしまったら……
振られるどころか、お互いに気まづくなって友達にさえ戻れなくなるかもしれないんだ……

……危なかった……

爽くんは、こちらをちらっと見ると
「びっくりしたね」と言って微笑んだ。

そんな、優しい彼の笑顔を見る度に
私の胸はキュッと締めつけられる……

「そろそろ、帰ろっか……爽くん」

「うん、そうだね!」

二人は、さっきよりも少しだけ距離をとりながら……
夕暮れ時の少し切ない鴉の歌声を聞きながら河川敷を歩き去った。
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第2話~悩み~

私は、しばらくずっと悩んでいた……

爽くんに彼女ができるかもしれない……

それが、素直に喜べないのは……
私もいつの間にか「彼のことを好きになっていた」と気づいてしまったから……

だけど、振られるのはもちろんの事
上手くいって付き合えたにしろ、今までの

ように途中でお別れすることになれば
もう、仲間としても繫がることさえ難しくなるかもしれない……

あれほど苦労して苦労してやっとできた仲間を自分から別れに導くような行動はしちゃいけないし、したくない……

でも、このままじゃ……

私は一人、何度も似たようなことをぐるぐると考えながら頭を悩ませていた。

……ほら、だから恋って嫌なんだ……

こうやって、私の脳内を支配して

心を疲弊させる
……早く忘れよう……

私はスマホを片手にベッドに横になりながら
来週行われる近くの婚活パーティーを予約した。

……これで、良い……

……早く爽くんのことは忘れて……

……爽くんの恋愛を友人として応援できるようになろう……

……これからも変わらず、爽くんとは

生涯、繋がって居たいから……

──だけど、案の定
婚活パーティーでは全く良い出会いがなく

……というよりは、私の中に彼が居る限り
多分、素敵だと思える人になんて
永久に出会えないのだろうが……

そんな、恋愛に依存しがちな私が

一番はじめにつき合った彼と別れた時の経験を教訓に
「自分一人の時間も楽しめるように」と
始めた趣味のギターでさえ
弾きはじめると
そこには爽くんの姿が重なる……

……なんで、彼はギターを弾いてるんだよ……
と意味不明な点に一人で怒りを感じながら
6本の弦を指で思いっきり力を込めながら
「ビーーーン!」と強く弾いた

頭の中で優しいギターの音色を奏でる彼を

掻き消すように……
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第3話~後悔~

今週末は、爽くん、赤西くん、高ちゃんの

お馴染み音楽サークルメンバー4人でスタジオに入った。
赤西くんと高ちゃんがエレキギターとベースでセッションしている間に、爽くんがこの前の練習で切れてしまった私のギターの弦の
張り方を教えてくれている

「爽くん!こんな感じで良い?」

「うーん、もうちょっと引っ張ってみて」

「こう?」

「こんな感じにグッて」と囁きながら彼が

伸ばした手が偶然、私の手に触れた。

……ドキン……

……ちょっとだけ、嬉しかったりして……

……って、私何考えてるんだろ……馬鹿……

「じゃあ、白ちゃん!1回弾いてみて」

「えっ、あっ、はい!」

「アハハっ、何でいきなり敬語?」

私がそんな風に一人浮かれている間にギターの弦は綺麗に張り替えられた……

「ジャカジャカジャ~ン♪」

「良い感じ!爽くん、ありがとう」

「どう致しまして!」

彼はまた、優しい顔で微笑んだ。

……ドキン……

……天然の殺人スマイルだ……

「真白さん、張り終えたんっすか?

「あっ、うん!赤西くん高ちゃんお待たせ」

高ちゃんは「大丈夫」とコクリと頷いた

「じゃあ、4人でセッションしますか!」
赤西くんのそんな大きな声がマイクごしに
キーンと響いた

「ヤベっ、マイク電源入ったままだった」

3人は、そんな赤西くんの姿を一斉に見て笑いながら演奏のスタンバイをはじめた

その、穏やかな雰囲気のまま……

小さなスタジオホールから4人の奏でるメロディが踊り出すように弾けた。
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第4話~この歌よ届け~

次の演奏会で弾く楽曲のフレーズ

そこには何度か「好き」という
二文字が出てくる……
それは、目の前にいる
この人に今一番伝えたい言葉
それを、伝えることのできない私は
せめて歌の中だけでもと思い……
その二文字にぎゅっと気持ちを込めるようにして歌った。

赤西くんのエレキギターの音色が激しく踊り狂う、それを高ちゃんのベースがしっかり支えている……そんな2人の奏でる迫力あるメロディに追いつこうと私が自由に駆けまわりすぎて見失った五線譜の道を爽くんのアコースティックギターの音色が正しい道に導いてくれる……

4人の音は1つになって
ストーリーを描きながら
フィナーレへと向かう……

そんな風に、2時間の練習はあっという間に

過ぎ去っていった。

私達は、少し椅子に座って休憩をしていると
赤西くんが例の話題を振ってきた……

「そういえば、あれから三爽さん!
例の彼女と進展とかあったんすか?」

「えっ!」

高ちゃんも興味津々で爽くんの方を見ていた

「あぁ、まぁ……ぼちぼちね」

「何、もったいぶってるんすか!」

……ドクドクドク……
私の鼓動が少し早くなるのを感じる

「実は……」

……ゴクリ……

「この前、告白して付き合うことに」
爽くんは、少し照れるような仕草をしながら微笑んだ。

「おーー!まじっすか!!」
赤西くんのそんなハイテンションな声に

ビクンと隣に座っていた高ちゃんが驚く
「意外と男気あるっすね!三爽さん」

「アハハっ、意外って何だよー」

「どんな風に告ったんっすか?」

「……。」

「私も聞きたいな!爽くん

「まぁ、なんかあれだよ……普通に

「普通に?」
3人は声を揃えて聞き返した

「好きです……って」

私は、何で聞きたいなんて言ったんだろうか……
余計に悲しい気分になることは
分かっていたはずなのに

ただ、彼の告白する姿なんて

多分一生見ることないから
せめて、その時の彼の表情や彼女に向けられた言葉を私に向けられているような感覚で
味わいたかったのかもしれない……

一瞬、馬鹿みたいに「好き」という爽くんの言葉にときめいてしまったが……

冷静に後から考えると、私ではない彼女に

向けられた「好き」という気持ちを目の当たりにして……更に傷ついただけだった。

……全て、遅かった……

……私は、馬鹿だ……

恋愛で一番大切なタイミングを逃してしまったのだから……

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第5話~タイミング~ 
私は、夜自分の部屋のベッドに横になると
ボーッと爽くんのことを思い返していた……

彼と始めて出会った時……
サークル初参加だというのに、皆の前で全く物怖じせずギターの弾き語りをする姿……
そして、奏でられた誰もを魅了する柔らかく心の濁りを洗い流してくれるような
メロディ……
私の中で彼の第一印象はフワフワと空高く舞う石鹸の泡だった。

思えば、あの時からまだ好きとまではいかないものの……彼の人間性に惹かれつつあった

「皆でご飯でも一緒に行こう」
そんな何気ない一言だったが……
私がサークルに入った当初から中々言いたくても言い出せなかった言葉

それを、サラッと言えてしまう彼に対して
尊敬にも似た気持ちを感じていたからだ

皆でシェアしていたサラダの残り一つしかないゆで卵を私に譲ってくれるところ……
バーベキューで焼死しかけていた、真っ黒なピーマンを自分のお皿に率先して入れるところ……転んでしまった子どもの元に、風のごとく一目散に飛んでいくところ……

彼の純粋な優しさに、だんだんと私は友達以上の何かを感じるようになってしまっていた……

そして、決定的なトドメの一撃は
私が悲しみに暮れていた時……爽くんのギターと歌声がそんな心をぎゅっと抱きしめるように包み込み救ってくれたことだ。

もう、あの日からこの想いは止められなくなっていた……
なのに、私は……

今の友情を壊すことを恐れて、見ない振りをしてしまった……

恋愛感情を持ち込んだことにより、私の人生で初めてできた六人の仲間との関係にヒビが入ってしまうことを恐れて……

だから、爽くんが
「彼女がそろそろ欲しいかな」と言った時も

「友達から紹介してもらった女の子がいる」と聞いた時も
私はこの想いを隠し通してきた。

爽くんとその彼女がつき合うまで私は

上手くやり過ごしてきたはず……

きっと、これからも……

そう思っていたのに、私の心は主人の言うことを全く聞きやしない

今にも、「爽くんの元に駆け出せ!」と
私を揺さぶって揺さぶって……
胸の辺りを強く、強く締め付けてくる……

ここ数年で立て続けに二度も失恋を味わった私にとって恋とは……

泡のように消え去る存在。

私がこの苦しみに耐えて目を逸らしていれば……今のままのカタチで、ずっとずっと
何一つ変わらずに爽くんや皆と繋がっていられる……

そう、思っていた。

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第6話~もどかしさ~ 

先週末──
「馬鹿になるほど幸せだ」メンバーと
いつものように食事に行った時の事……
皆の些細な恋愛トークから、ふと爽くんの彼女の話題になった……

「そういえば、爽くん彼女とは最近どう?」
海くんが夕食のハンバーグを食べながら
何気なく質問した

「まぁ、ぼちぼちですよ」
恥ずかしそうな様子で話を逸らそうとする彼に、更に愛美ちゃんが詰め寄る

「彼女、手料理とか作ってくれるの?」

「えっ、あっまぁ……うん」

「へぇー良いっすね!何が得意なんですか
彼女」

「ハンバーグが美味しいかな」

「幸せそうだね」
と高ちゃんが少し微笑んだ

「アハハっ、お陰様で」

……彼女とはもう家で一緒にご飯食べる仲なんだ……

私は、そんな皆の話が上の空になるほど
幸せそうな表情で笑う爽くんをじーっと見つめていた……

本当に好きなら、好きな人が幸せそうなんだから私も祝福してあげなくちゃって分かっているのに……

思い通りに言うことを聞かないそれが
微かな抵抗をして……
私は、いつものアイスティーをあえて頼まず
爽くんと一緒のオレンジジュースを注文していた。

心のこもってない笑顔で精一杯
「彼女、素敵な人だね」と褒めてみたが……

彼が照れながら嬉しそうに笑う姿を見て、何かが溢れ出しそうになったので……
目の前のオレンジジュースと一緒に思いっきり呑み込んだ。

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第7話~恋の涙~ 

あれから、時間だけが過ぎていく……

心地良く温かい季節は通りすぎて……
毎日じめじめと鬱陶しく、空が嘆く季節の到来……

「ザァーー」と降りしきる雨の音を聞きながら、部屋でぼんやりと一人考え事をしていた

小さい頃から今まで私は、人から傷つけられて多くの涙を流した……
思春期には、一時期そんな涙が枯れ果ててしまい……痛みも苦しみも悲しみも喜びも何一つ感じられなくなっていたこともあったが……
ここ最近になって初めて人間らしい様々な感情がよみがえってきた。

だけど、生きていく中で必要最低限のことしかしてこなかった私が……恋愛をする為に時間を使うようになり……その上、片想いで涙を流すまでになるなんて……想像もしていなかった

正直、私にもこんな涙を流すことができたんだな……と自分でも驚いている

一人になると、脳裏に爽くんの笑顔が浮かんできて……もどかしくて、もどかして言葉にならないその気持ちを表すように目から涙が溢れてくる……

……こんな状態で、以前のように爽くんと友達で居られるのかな……

小さなため息をつきながら眺めている窓越しの庭には、私の心を映すように大きな水たまりができていた。
無題1479

第7話~ひまわり~ 

皆と出会ってから二度目の夏……
灼熱の花、ひまわりが咲く季節が今年もやってきた……

少し傷心ぎみだった私は、無意識にふと何か思い立ったかのようにスマホの検索エンジンを使ってひまわりの花言葉を調べた……

そこには、「あなただけを見つめる」と出てきたものだから……
なんだか急に恥ずかしくなって慌てて検索履歴を削除し、何もなかったことにした。

……梅雨も明けたことだし、いつまでも
ジメジメ考えてないで外にでも遊びに出かけよう……

そう、思った時……

偶然にも「馬鹿になるほど幸せだ☆彡」の
チャットグループにメッセージが入ってきた

馬鹿になるほど幸せだ☆彡(6)

〈愛美ちゃん〉皆ー!久しぶり~♪
元気にしてるかな?

〈海くん〉おっす♪元気!100パーセント

〈赤西くん〉元気っすよ(´V`)♪

〈爽くん〉久しぶり!元気だよ~(^^)

〈私〉元気だよー(´▽`)ノ

〈高ちゃん〉はい、元気です。

〈愛美ちゃん〉健康観察みたいw

〈私〉愛美ちゃんは?

〈愛美ちゃん〉超元気!(ゝω・)
7月にもなったことだし、皆でまた集まろうよ!

〈海くん〉良いね♪~

〈赤西くん〉良いっすね♪

〈私〉何する~?(´▽`)ノ

〈爽くん〉夏らしい場所行きたいね(*⌒▽⌒*)

〈海くん〉夏といえば?

〈愛美ちゃん〉海

〈赤西くん〉祭り

〈私〉バーベキュー

〈高ちゃん〉……ホラー映画

〈私〉アハハ、皆で見るのも良いかもね!!

〈赤西くん〉せっかくの夏なんだし、外出しましょうよ!

〈私〉赤西くん、ホラー映画にビビってたりしてw( ^o^)

〈赤西くん〉(▼∀▼)

〈爽くん〉まぁ、確かに夏ならせっかくだし外で遊びたいよね (。・ω・。)
あっ、この間この辺りで開催される
ひまわり祭りパンフレットを偶然見つけたんだけど……

〈私〉ひまわり祭り良いねっ!行きたい

〈愛美ちゃん〉うんうん、皆で写真も撮りたいし!丁度良いね♪

〈海くん〉じゃあ、ひまわり祭りからの
ホラー映画鑑賞ということで(^^)v

──ということで
今日は、皆とひまわり畑を訪れていた。

私達の背丈を優に越すほどの大きな黄色い花が咲き乱れる中を、六人はゆっくりと歩いていく……
真っ青な空から見下ろす灼熱の太陽が無数のひまわりを激しくキラキラと照らす光景は
まるで、大地に散らばる小さな可愛い太陽の子供が光の粒を実らせているように見えた。

ミーンミーンミーンミーン─

「ここにいるよ!」と仲間を呼び寄せるように鳴き続ける蝉の声をバックに私達は目の前に広がる太陽の子供達の明るい笑顔に魅了されていた……

「キャーッ蜂がっ!!」
愛美ちゃんが大きな声で叫ぶ

「愛美ちゃん、ミツバチごときでおおげさだな」と海くんがプッと笑った

「違うっ!海くんの背中に蜂がっ」

「えっ!!まじっ」
そう言って、慌てふためきながら蜂を追い払おうとする海くんの隣で高ちゃんが冷静に
ポツリと呟く

「海くん、じっとしていればミツバチは何もしませんから動かないで下さい!」

「えっ、あっ、はい!すみませんっ」

「アハハっ、もう大丈夫!飛んで行ったよ」
と爽くんが優しく笑った

「さすが、高ちゃん
どんな時も落ち着いてるね」と私がポンッと肩を叩くと

「ミツバチはわりと好きなので」と
彼女は少し恥ずかしそうにボソッと言った

そんな風に何気ないやり取りをしながら、
六人はひまわり畑の細道を縦一列に並ぶようにして真っ直ぐ突き進んだ……