体験記│元コミュ障の恋愛-生きづらさを抱えながら 【第19章】

体験記│第19章 心を食べて、心で生きる

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第19章~片想い~

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第1話~27回目の春~

第2話~気づき~

第3話~物思いにふける~

第4話~好き~

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第1話~27回目の春~

今年もまた、始まりを告げるあの花が舞い散る季節がやってきた……
私が生まれてから27回目の春

今日は馬鹿になるほど幸せだ☆メンバーと
お花見に来ていた……

私達はヒラヒラと舞う桜の木の下にシートを敷いて持ち寄ったお弁当をつまみながら和気あいあいと会話を楽しんでいた。

「愛美ちゃん!そういえば、例の彼氏とは
順調?」と私が聞くと

「まぁ、ぼちぼちね」
少し照れたように笑っていた。

「えー、ゴホッ、ゴホッ」

「どうしたの?海くん喉に何か詰まった?」
私がそう言って彼の方を見ると、海くんは
いかにも嬉しそうな顔をしながら

「実は!俺も最近、彼女ができました♪」
と皆に聞こえるような声で言った。

「えっ!嘘っ、ほんとにー!?」
愛美ちゃんが疑わし気な顔で見つめる

「おうよ!」

「やったじゃん!おめでとー!」

「サンキュー」

海くんと愛美ちゃんはそう言って、手に持っていた紙コップで乾杯した

「ちなみに、どこで出会ったんすか?」

「実は、最近また街コンに行ってさー
ちょっとアタックしてみたんだよね♪

街コンか……そういえば愛美ちゃんと出会ったのも街コンだったな……

「私もそろそろ出会いの場に行こうかな……」

「おっ、白ちゃんもそろそろ恋愛したくなった?」と嬉しそうに愛美ちゃんがニヤッと笑った

「うーん」
「まぁ、年も年だしね……ボチボチ」

祖父のことがあってから、私は早く家族を安心させてあげたいという気持ちが強くなっていた……恋愛することに対しては、まだ苦手意識はあるけどそろそろ将来を考えれる人と出会いたい……そんな気持ちはあった。

「赤西くん!彼女が居ると良いよ~本当に」
海くんはそう言って、彼女が写っているスマホの中の写真を見せた

「すげー可愛い子っすね!」

「でしょっ」

「まぁ、俺もそろそろ探そうかな」

「今度、俺の彼女の友達と4人でどうよ?」

「さすが、兄さん!あざーす」
二人は肩を組みながら仲良さげにそんなやり取りをしていた

「爽くんや高ちゃんは?」
私は、紙コップに注いだアイスティーをちびちび飲みながら問いかけた

「私は、相変わらず彼氏はいらない派なので」

「そっか、そう言ってたもんね」

「高ちゃん!そんなこと言わずに一度私達も4人で会ってみない?」
愛美ちゃんも海くんと同じように、彼氏の友達を紹介しようと高ちゃんの方に詰め寄っていた……
私は、前例があるので友達からの紹介より
自分で探したい……そんな風に言っていたこともあり二人の会話から外れて、隣に居た爽くんに喋りかけた

「で、爽くんは最近どうなの?」
私は何気なく彼に問いかけた
「アハハっ、まぁ……あれだよボチボチかな」

「ぼちぼち?」

「アハハっ」
爽くんは照れたように少し視線を逸らした

「もしかして……好きな人できたの?」

「……うん、まぁ一応」

「……そうなんだ、良かったね」
その時、私はモヤモヤとした不快感と針で刺されたようにチクッとした胸の痛みを同時に感じた

ポカポカ陽気で気持ちの良いそんな季節から
再び、凍てつく冬に戻ったかのように……
無題1479

第2話~気づき~

「爽くん……」

「んっ?何?」

「そ……その人とはどこで出会ったの?」

「僕の昔からの友達の紹介でだよ!」

……昔からの友達の紹介……

「まぁ、まだ付き合ってはないんだけどね」

「そうなんだ!」

……まだ、出会って間もないのかな……

……良かった……

……ん?……あれっ……

……良かったって何だ?……

爽くんがいつものように優しい顔でニコッと笑うと、私もひとまず感情の隠ってない笑顔で取り繕った

「爽くんはその子のどこを好きになったの?」

……もう、私の口に蓋をしたい!
そんな風に思いながらも
心の叫びが次々と吐き出される……

「どこ……」
「うーん、まだ出会って2回目だから
まぁ、どことなく雰囲気とかかな?」

「優しい子が良いって言ってたもんね」

「そうだね、優しい感じかな!
話していても落ち着くし」

……ズキン……

「そうなんだ!じゃあ
そろそろ告白とか考えたりしてるの?」

「うーん。まぁ、中々ね」
そう言って、少し照れたような仕草をした

……そっか、爽くん……

……好きな子ができたんだ……

……良かった……

そう、思っているはずなのに素直に喜べない
自分と頭の中で格闘している

──6人は食事を済ますといつものように、
川の字になってシートの上に寝転がった……

空から桜の花びらが無数に舞い降りてきて
ゆっくり、ゆっくり時間と共に私達を花の
毛布で覆うように積もっていった……

そんな中、隣で気持ち良さそうに目を塞いで寝転んでいる爽くんの頭の上に花びらが
ヒラリとのっかった……

「爽くん、頭に花びらついたよ」
そう言って、私はその花びらを指で
掴みとった。

「ありがとう」
彼は、目を塞いだまま小さく呟いた。

……ドキドキドキドキ……

それは、そんな無意識な行為で何かを間接的に伝えたかったのかもしれないし

もうすぐ彼女ができるであろう
爽くんに向けて
私の微かな抵抗だったのかもしれない……

今となってはそう思う。

無題1479

第3話~物思いにふける~

今日は早く仕事が終わったので、帰宅して
一直線に自分の部屋のベッドに寝転ぶと

ひとり、ボーっと考え事をしていた……

それは、三日前のお花見の時の爽くんとの
会話だった

好きな人ができ……
もうすぐ彼女ができるかもしれない……
そんな、爽くんに対して湧き上がってきた
複雑な感情。

私は、2人目の彼と別れてから恋愛に対して
慎重になっていた

恋愛をすると感情が上手くコントロールできなくなるし、気分の浮き沈みが激しくなり
疲弊してしまう……

それに、別れて日も浅かったことから
恋愛をしてもいつかは別れが訪れてしまうという恐怖感が拭えずにいた

友人としてなら、辛い別れに直面することなくずっと傍に居られる……そう思っていた

友達を好きになってはいけない
そんなルールを自分で作ったはずだ

なのに、この気持ちは何なんだろう……

爽くんは、この先もずっと変わらない
友人のはずなのに……

一人、突き放されたような
何かが無くなってしまうような
そんな焦燥感が襲ってくる。

……嫌だ……

ふと、私は
六人で並ぶ記念写真の中の彼を見つめた……

いつもと変わらない優しい笑顔

彼の笑顔を見ていると気持ちが柔らぐ……

そんな笑顔を私は
独り占めしたかったのだろうか?

……欲張りだな……

私は一人で居ると、物事を過度に悲観的に
捉えて自らダークサイトに飛び落ちて
塞ぎこむような悪い癖がまだ残っている

だから、柔らかい光のように笑う
温かく優しい彼の近くに居ることが
何より心地良く感じた……

そして、いつの間にか
私の中で彼の存在は……

そんな風に考えていると、無償に彼の声が
聞きたくなり、私は気がつけば衝動的に
爽くんに電話をかけていた。

……はっ、ヤバイっ……
と思った時には既に彼に通話が繋がっていた

「もしもし?」

彼の声が電話越しに響いた

「あっ、もしもし」

「白ちゃん珍しいね!どうしたの?」

……本当に私、どうしちゃったんだろ……

「あっ、えっと……ごめんっ間違えました」

「えっ!」

「あっ、愛美ちゃんにかけようとしてたんだけど間違って爽くんに繋いじゃって

「アハハっ、そうなんだ!」

「寝ぼけてたのかもっ」

……うっ、苦しい……

「僕もたまにあるよ、そういうこと」

「本当に!?」

……良かった、怪しまれてない……

「さ……爽くんは今何してたの?」

「僕?僕は部屋でまったりしてたよ」

「そうなんだね!一緒、一緒」

「今からコンビニで買ってきた夕食を一人で食べる予定」

「そっか、爽くんひとり暮らしだもんね」

「そうなんだよねーいろいろ大変だよ

「…………。」

……何か喋らなくちゃ……

「な……なんか、爽くんの部屋って真っ白な
イメージがあるね」

「えっ?」

……私は、何を言ってるんだろうか……

「あぁ、でも確かに壁とかソファーとか白いかも」

「そっ、そんなイメージあるよね!」

「なんか、白ちゃん超能力使えるみたいで
すごいね!」

「アハハっ、実はそうだったりして」

「じゃあ、僕の今日の夕食のメインは何でしょうか?」

「えっ、は……ハンバーグとか?」

「本気で言ってる?」

「えっ、もしかして」

「正解です!」

「嘘ーー!」

「アハハっ、もしかして監視カメラとか
つけられてたりして?」

「実は……
とか、言ってみたりして!」

「アハハっ!」

「冗談だよ」

……自然とあなたの好きなものが分かるの
かもしれない……

……多分、そのくらいずっと
知らず知らずのうちにあなたに意識を向けていた……

この機会をきっかけに自然な流れで
今度の日曜に二人でスタジオ練習に行く約束をこぎつけることができた。

衝動的な行動は大概
後から大きな後悔に繫がるのだが……
今回ばかりは良い方に転がったようだ。

私は心の中の黒いモヤモヤから一瞬解放されたかのように、和らいだ顔をして
そのまま深い眠りについた。
無題1479

第4話~好き~

──日曜日
私は、爽くんとギターの練習に
スタジオを訪れていた。

いつもと同じように、どちらかのギター演奏に合わせて歌ったり、お互いにギターを弾きながら一緒に歌ったりと様々な形で
演奏を楽しんだ。

爽くんの優しい歌声は出会ったあの日と
何も変わらない……

だけど、私には前よりも
甘く切ない歌声に聞こえてくる……

……あぁ、やっぱり……

……私、爽くんのことが……

……好き。……

彼の声を聞く度に

彼の笑顔を見る度に

私の胸からどうしようもなく抑えようのない気持ちが溢れて……

ただ、それを伝えられないもどかしさ
心を縛り付けるように取り巻いていた。

今年の夏の演奏会に向けた課題曲には、恋愛ソングも含まれていたのだが……
そんな、課題曲の「好き」というフレーズを
爽くんが歌うと私は妙にドキドキしてしまう……

小さなスタジオホールの中を優しいメロディが包み込み、二人の心音を共鳴させながら
穏やかな時を刻んでいく。

その時─

「痛っ!!」

私が勢いよくギターの弦を弾くとビシッという鈍い音と同時に私の指から血が出てきた

「白ちゃん、大丈夫!?」

「弦が切れちゃった……」

「それより、指が」

「あぁ、全然大丈夫だよ
それに、絆創膏持って来てるし」

「そうなんだ、準備良いね!」

「私、よく怪我しちゃうほうだから
そう言って、鞄からティッシュと絆創膏を取り出した

「貸してみて、貼ってあげるよ」

「えっ……」

私の脳裏には爽くんが私の指にそっと触れる
甘いシチュエーションが一瞬よぎった

……心臓を潰されてしまう……

「だっ……大丈夫だよ!自分で貼れるから

「そう?」

「うん、このくらい!舐めときゃ治る」

「アハハっ、それって普通は男性の台詞じゃない?」

私は少し断ったことを後悔しながら、
自分で絆創膏を指に貼った。

「弦も切れちゃったことだし……
今日は、この辺で練習切り上げよっか!

「うっ、うん……」

……まだ、帰りたくないな……

私のそんな願いが通じたのか
「夕食一緒に食べて帰る?」と爽くんが
問いかけてくれたこともあり、二人は
帰り道にいつも横切っていたパン屋さんに立ち寄って、ギターの弾き語りでお馴染みの
川辺に腰掛けながらそれを食べた。

「この胡桃パン美味しい!!」

「僕の買ったカレーパンも美味しいよ」

「また、あのお店行こうね」

「うんうん、また行こう!」
そう言って、爽くんは優しく笑った。

「…………。」

「爽くん、あのさ……」

「ん?」

「この間までは私……
まだ、恋愛に対して億劫だったけど……
今は……そのっ恋人が居たら良いかなって
思えるようになったんだ!」

「そっか、良かったね」

「うん…」

「恋愛ってさ、悲しいことも沢山あると思うけど、その分いろいろと学んで成長できることもあるしね」
爽くんは、紅に染まる川を見つめながらそんな風に呟いた。

「うん、そうだよね」

「僕みたいな恋愛経験が少ない人間が言うのもあれだけどね」

「そんなことないよ、爽くんみたいな人を
好きになる子……多いと思うよ……」

「アハハっ、そうかなー」

「うん……」

私の喉に長い間ぐっと詰まっていた言葉が
その時、今にもこぼれ落ちようとしていた……
無題1479

               ……続く……