体験記│生きづらさの正体 発達障がいという病を知ってから 【第18章】

体験記│第18章 心を食べて、心で生きる
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第18章~これからの人生~

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第1話~偏見~


第2話~ボーダーライン~


第3話~ADHD~


第4話~個性~

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フリーターとして、働くようになってからも
私は一度仕事を辞めている……
理由は私が精神的に体調を崩して働けなくなったからだ……
物覚えが悪く、一度に複数のことができない私はアルバイト先でも冷たい眼差しを向けられていた……
時々私に聞こえるように陰口も叩かれた……
そんな現状を少しでも良くするために、その日に教えてもらったことをできるだけ沢山メモに残し、家に帰って忘れないうちにそれを綺麗にまとめ、翌日出勤前に何度も目を通す……そんな風にボロボロになったメモ帳をいつも握りしめていた。
それでも、人より劣ってしまう私に罵声を浴びせてくる人もいた……
私は少しでも周りに迷惑をかけないように
朝早く出勤しては自分にできる仕事の準備をしたが……
「アイツ本気でウザいし消えろっ」という
陰口を同じアルバイト先の学生に言われている所に運悪く遭遇したこともある。

また少しずつ心を病んでしまった私は……
それからしばらくの間、自宅療養することになった……
しばらくして、再び体調がましになってきた段階で今のアルバイト先とは別の職場で前より人と接することが少なく自分にあった職種で働くことにした……
そのおかげかそこまで強いストレスは感じなくなったが、それでも二次的に併発してしまった心の病に苦しめられている……

また、今の私は心のゆとりを手に入れた反面収入面が安定しなくなったこともあり……
何とか対策を考えようとフリーランスとして働くきっかけを見つけるためにひとまず、ブログを立ち上げてみた……
コツコツと継続して努力できる人が向いていると言われるブログ投稿は私に合っている

発達障がい者枠で働くことも視野に入れたこともあったが、家庭の事情もあり
いろいろ悩んだ結果……現状の形で生きていくことに決めた

また、それとは別に私が第三者にこんな質問をしたことも1つの理由となった

「もし、職場に発達障がいの人が居たら
仲良くできる?」

「うん、まぁ仲良くできると思うよ」と大抵の人は答えてくれた

だが、
「じゃあ、仲良くなりたいと思う?」と少し質問を変えて聞いてみると……

大抵の人は「うーん」と悩まし気な顔をしていた。

つまり、そういうことなんだろうと私は
思った。

どんな物事にもメリットがあればデメリットもある、逆に私のように発達障がいを個性として生きていくことを決断したとしても
それは同じことが言える……
そんな、良い点、悪い点を考慮した上で
私は個性を伸ばす道を選択した。

多分、偏見はまだまだ無くならない……

だけど、自分の思考ならいくらだって
自分自身で変えていける……

そう、思っている。


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第2話~ボーダーライン~ 

第三者から見て、発達障がいと本人の性格との境界線を見分けることは難しいところだと思う。少し天然で抜けている人、人より少しこだわりが強い人、時間にルーズな人という、人間ならではの個性は誰もが持っているものだから……
幼少期の様子や現状の社会適応能力、もしくは本人の苦しみの度合いというアバウトな
ものでしか診断できない以上この境界線は
本人ですら判断することが中々難しいところだなと感じる。

だけど、その医学的にはっきりと証明の出来ない状態が世間からの偏見にも繋がっているようにも思える……
目に見えないものはやはり、中々受け入れ難いというのが一般的な考え方なのだろう

また、この発達障がいというものを当事者がどう捉えるかということも、この「性格」が深く結びついていて、例えば神経質で繊細なAさんと大らかで明るいBさんとでは、仮に全く同じ症状により苦しんでいたとしても、感じ方の違いから治療方法などは一人一人違ってくるわけで……
もしくは、AさんとBさんの職業の違いから
Bさんだけは発達障がいと発見されずに
人生を上手く歩んでいくこともあるかもしれない……

生まれながら脳の発達に偏りができる障がいと定義されつつも、そんな風に少しあやふやな点がこの発達障がいの特徴であることから「発達障がい」と「性格」は切っても切っても切り離せないほどに複雑に絡み合っているといえるだろう……

まぁ、何にせよ1番大事なのは本人が今現状
どんな気持ちでいるかということ……

どんな選択でどんな道を歩むにしろ

人生は長いようで短い……

それなら、少しでも
笑顔で居られる時間を増やせるように……

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私は、どちらかと言うと注意力が散漫な症状が強く出ている……
だけど、私がSNSを使って出会った人の中には多動性や衝動性の強いアスペルガー症候群の女性がいた……
私とその女性は、何らかの縁で偶然にも出会ったのだが……
彼女と実際に会話する中で、私は同じ障がいでも全く違う症状で苦しんでいる人がいるのだということを目の当たりにした。

同じアスペルガー症候群のはずの彼女だか、私とは正反対に記憶力がずば抜けて良く、要領もとても良かった……
私から見れば羨ましい限りで本当に同じ障がいなのだろうか?と疑問に思うくらいに……

しかも、過度に周りの目を気にしてしまう私とは違い、彼女は全く周囲の目なんて気にしない逞しい性格だった。
だが、彼女は私と同じように発達障がいの症状で苦しんでいる……
職場では、ADHD特有の衝動性により約束事が守れず大きな問題になったり、人に合わせたり嘘をつくことが出来ない彼女は相手が傷つくことを悪気なくサラッと言ってしまったりと……
とにかく、人間関係のトラブルを引き起こしやすく悩んでいたらしい……
そんな彼女の体験談を実際に聞く事が
更にADHDのことを詳しく学ぶきっかけとなった。

ADHDの私達の生き方も様々で、上記でも書いたように彼女は人の目など気にも留めない性格で、むしろ人と同じが嫌だとも言っていたこともあり、発達障がい者枠として働いていくことに抵抗はなかったとのことだ。

その方が周りにもある程度理解してもらえるし、働いて行く上での障壁が和らぐことによりストレスが緩和できると私にも進めてくれた。
私は、周りからの偏見は大丈夫なのか?と聞いてみると彼女はそもそも周りなんて気にしていないし、自分が働きやすくなるからそれが一番だと言っていた。
私は、1度じっくり考えてみたが……
やはり、彼女のように偏見があったとしても気にも留めないなんて無理だと思った……
私は元々気が弱い上にできれば人に嫌われることは避けたいと願う人間だったから……
だから、私は発達障がいをあくまで個性として捉えて生きる道を選んだ

二人は同じ障がいを持っているが、症状も考え方も全く違う……

そういう意味でも発達障がいというものに、こうした方が良いという答えはないのだと思った。

ただ、少しでも多く同じ障壁で苦しむ人の話を聞いたり、参考にしたりしていきながら
自分が1番納得できる方法を考えて
一歩一歩幸せに近づけるように歩いていく

ただ、それだけ……
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第4話~個性~ 

有名な音楽家や発明家などにも多かったとされる発達障がい、今ではその生きづらさから
障がいであることを世間に認知されつつあるが……それでもまだまだ偏見が絶えないものには違いないのかと思う。
そんな、私が自分を卑下することなく輝いて生きていく為には……

出来ない事を頑張るのではなく、出来る事を頑張ることが必要なのかなと感じるようになった。
何か人より特化して出来る事を磨くことで
自信にも繫がり、そして自信を持つことにより、思考が変わる、思考が変われば日常の行動が変わり、行動が変われば環境が変わる……

もし、今置かれている環境に苦しんでいるのなら、ひとまずはじめに自分の自信に繫がるような分野を頑張って磨いてみる……
そこから、ゆっくり時間をかけて
最終的には自分を取り巻く環境を変える

それが、小さな幸せを見つける為の第一歩に繫がるのではないかと思っています。

私もまた今までの人生経験を生かしながら
やっと、小さな幸せを掴みつつあります……

幸せになるためには……
幸せだと思えるをまず養うこと

そうすればきっと……
幸せは後からついてくるのだから……

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次章から、そんな風に決意を改め
再び真っ直ぐ歩みはじめた……
光野真白の体験談を描きたいと思います。

                 

      

第5話~おじいちゃん~   

それは、新年を迎えて早々のことだった……

私の祖父は今年の誕生日で80歳を迎える!

だが……ここ最近になって、急激に物忘れがひどくなったように周囲は感じていた。

典型的なものとして
「朝ごはん食べたかな?」というものだ
私が「お爺ちゃん食べたよ」と言うと
「あー、そうじゃったそうじゃった」と思い出してはくれるものの……
そんな会話が日常の中で頻繁に飛び交うようになっていた。

いくつになっても変わらず祖父は私達に
「欲しいものに使いなさい」と言って
お年玉をくれるのだが……
その年のお年玉袋を開けると私は驚いた。 

……中身、入ってない……

私は、その事実を知らせることなく
「お爺ちゃん、ありがとう」と言って
ポケットにお年玉袋を仕舞おうとした時……
弟の守がスッとそれを抜き取り
「姉ちゃんいくらもらったの?」と中を覗いてきた

「ちょっ、守っ!止めなさいっ」

「あれ?姉ちゃんお金入ってないじゃん」

「ん?白ちゃんのお年玉……
入れ忘れていたのかの?」

「お爺ちゃん、大丈夫だよ!」

「ワシも歳だな……」と少し落ち込んだような表情で財布の中からお札を取り出し、包み直してくれた

「バカッ」
バシッと弟の頭を軽く妹の耀が叩いた

「ごめん、ごめん」

そんなやり取りを家族でしながら、年末の
恒例行事の光野家総出の餅つきで作り置きしてあったお餅を焼いて、家族7人コタツにもぐりながら食べていた。
庭先で遊んでいた飼い猫のマルもお餅のような体をプルプル震わせながらコタツにもぐりこむ……
何気ない家族との時間をゆっくりと過ごす
お正月……

そんな、三が日真っただ中の

ある夜のこと──

祖父と祖母の寝室からいきなり大きな叫び声が聞こえてきた

「誰かーー!」
「誰か来てー!!お爺さんがっ」
それは、祖母の聞いたことのないような悲鳴にも似た声だった。

第6話~集中治療室~ 

私や両親、それに妹や弟が祖父母の寝室に
慌てて向かうと、そこには奇声を上げながら
苦しそうに頭を抱える祖父の姿があった 
「お爺ちゃん!どうしたのっ!?」と
私が駆け寄っても、ただ言葉にならない悲鳴を上げるだけで会話にならない……
そんな、今まで見たこともない様子の祖父の姿に私達の顔は青ざめ、母が急いで119番に連絡して、救急車を呼んだ……

担架に乗せられながらも苦しむ祖父に付き添いとして父が一緒に救急車に乗り込む……
その後を急いで追うように母が祖母と妹を連れて車で病院に向かった。

私と弟は母から家の戸締まりを頼まれたのでしばらく震える足を落ち着かせながらも
戸締まりをしてから弟の車に乗せてもらい病院に向かうことにした……
私はあまりの動揺に仏壇の前にペタンとしゃがみ込むとひたすら震え続ける手を握りしめながら祈った。 

………どうか、神様
お爺ちゃんを助けて下さい……

結局人は自分の力ではどうにもならない状況に追い込まれると、神頼みをするしかなくなるのかもしれない……

そんな、私の肩をポンッと弟が励ますように叩いて「姉ちゃん、急ごう」と呼びかけた

私は一瞬我を見失いかけていたが……
そのひと言で現実に戻れた。

弟の車の助手席に急いで乗り込むと、病院まで片道20分くらい……ただ、沈黙が続く中
私は息をするのさえ忘れそうになるほど祖父のことで頭がいっぱいになっていた。

……お爺ちゃん……

……もう、一生会えないなんてことは
ないよね?……

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第7話~生きて~

病院につくと、私は急いで母から連絡をもらった部屋に向かった……そこは集中治療室(ICU)待合室と書かれていた
祖母、両親、妹は俯きながら暗い表情で
待合室の椅子に座っている……
「お爺さん……脳梗塞で、緊急手術が必要らしい」と父が小さな声で呟いた

「それで!お爺ちゃん助かるの?」

「……まだ、分からないらしいが」
「厳しい手術にはなるそうだ」
今まで見たこともないような苦痛に歪めた表情の父を見て、私は愕然としてしまった。

それと、同時に涙が溢れてきた……

いつもの優しい顔の祖母の姿はそこにはなく、母や妹も目を赤く染めていた……

弟も、ただ言葉をなくし……
家族は重い沈黙のまま、5時間以上もの間
ICUの待合室に響くカチッカチッという
時計の音だけを聞きながら、祖父の帰りを待ち続けた……

一睡もしていない祖母の体調も気がかりになり私は「1度自宅に帰ったらどうかな?」
「手術が終わったら、すぐに連絡するから」と提案してみたが……
祖母は頑なにその場から離れようとはしなかった……
そんな祖母の気持ちを組んで私達家族は全員一緒になって、ただ祈り続けていた……


第8話~消えないモノ~

祖父の手術が終わるまでの長い時間、私の頭の中には祖父と過ごした思い出が走馬灯のように次々と流れてきた……
私が、まだ酷く心を病み……息をすることさえ疲弊するくらい人生に絶望していた頃……
そんな私を心配して祖父は毎日毎日
「白ちゃん、朝ご飯食べたかい?」
「白ちゃん、昼ご飯食べたかい?」
「白ちゃん、夜ご飯食べたかい?」と
しつこいくらいに尋ねてきてくれた……
いつもどんな時も私の身方で私の体調を1番に心配してくれる優しい人……
私はそんな日常を当たり前とさえ思い……
今までそんな祖父にお礼の言葉を述べたことがあっただろうか?
……もしかしたら、もう一生会えないかも
しれない……そう思った瞬間そんな後悔の念が込み上げてきて、何度も何度も祖父の笑顔が脳裏に過った。

……私は、自分が苦しみと戦うのに必死すぎて
今まで私を支えてくれた祖父や祖母に対して
残された時間が私達に比べ残り僅かなのにも関わらず、そのお礼を何一つしていない……

……嫌だ……

……このまま、お別れなんて絶対に……

──その時、ICUのドアの方から
白衣を着た看護師さんがガラッと扉を開けて入ってきた……

待ち兼ねていたかのように、家族一同揃って
看護師さんの方をバッと見ると
静かに息を飲み込んだ……

第9話~命~ 

看護師さんに案内されて、私達は手術を終えた祖父の部屋に案内された……
主治医の先生からの「手術は成功です」
という言葉に家族一同ホッと胸をなで下ろしたが、手術を終えた祖父の姿を見て再び強い衝撃を受けた……

手術前に、ある程度しっかりと後遺症についての説明は受けていたものの……
実際にその姿を目の当たりにすると、言葉が出なくなった。

祖父は、私達の顔を一切見ることなく、一点をただボーっと見つめて
「あーあーあーあー」という呻き声を上げることしか出来なくなっていた……

脳梗塞を起こした部位が言語を司る場所だったということもあり……
今の祖父は、言葉を発することも
私達の話す言葉を理解することも不可能だ

もちろん、少し処置が遅れていたら命はなかったのだから……
生きて再開できただけでも有難いことなのは重々承知している……

だけど、昨日まで普通に会話していた祖父の余りにも変わり果てた姿に私も今は何も言葉が出てこない……

だから、せめてもの気持ちにと……
そっと手を握った。

祖母と母と妹の3人も代わる代わる祖父の手をとりながら、涙を浮かべる……
父と弟も涙こそは流していないものの、今にも泣きだしそうな表情でそっと手を握った。

私達家族は、祖父の周りを円で描くようにしてじっと見守った……
そんな家族に共鳴されたかのように、祖父の目からもポロリと涙がこぼれ落ちた……

この現状を理解してではなかったかもしれない……
だけど、それは間違いなく祖父の心が生きている証だと思った。

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第10話~言葉~

手術後の祖父は体に麻痺こそはなかったものの、元々心臓が弱かったこともあり
すっかり歩けなくなってしまった。

また、認知機能の低下により、食事、排泄、着がえなど何一つ自分だけでは出来なくなっていた……
そんな、祖父の所に空いている時間さえあれば私は頻繁に通うようにした。

……出来る限り、たくさん顔を見せれば
何か思い出すかもしれない……

……言葉だって、少しくらいは……

……いや、あまりそれは
期待しないほうが良いか………

……だけど、今の私にできることは
ただ会いに行くことくらいだから……

私が病室に入ると、看護師さんが忙しなさそうにお昼の準備をしていた。
私がそれを見て「お昼は私が食べさせますので」と言うと
「ありがとうございます助かります」と
軽く会釈をして退室していった。

「お爺ちゃん!」

「あーあーあーあー」

「お昼ご飯、食べようね」

相変わらず言葉が出てこないことに変わりはないが、それでも術後直ぐよりは大分視線を合わせてくれるようになった。

私は、ムース状にすり潰されたおかずと
ドロドロの液体状のご飯を交互に祖父の口に
スプーンを使って運んだ……

はじめは点滴でしか栄養がとれなかった祖父がちゃんと口から食事をとれるまでに回復したことが何より嬉しくて……
そんな、少し痩せこけた祖父の顔をじーっと眺めていた……

……お爺ちゃんの笑顔がいつか取り戻せる日
まで、私にできることをしよう……

そう思いながら、二階の病室の窓からふっと外を眺めた……
一面、真っ白に染まった見慣れた町の風景を見下ろしながら……
「あっちが私達の家だよ、お爺ちゃん」と
分かるはずのない祖父にポツリと呟いた。

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第11話~感謝~ あれから、 数週間──

祖父が倒れたあの日から、ずっと友達に連絡すら取らずに放置していた私のスマホが
久しぶりにメッセージを受信した……

ふと、画面に表示されたチャットグループの馬鹿げたメンバー名を見て……何だか少しほっこり気持ちが和らいだ。

馬鹿になるほど幸せだ☆(6)
〈愛美ちゃん〉最近全く会えてないけど、
白ちゃん元気にしてる?(。・・。)

〈海くん〉年も明けたことだし、また皆で
一度集まりたいね~♪

〈赤西くん〉良いっすね(´▽`)ノ
真白さん企画して下さいよ

〈高ちゃん〉(o_ _)o

そんな、メッセージを見て久しぶりに
皆に会いたくなったが、今の状況を説明して
断ることにした。

……もし、私が遊びになんて行っている間に
お爺ちゃんの体調が急変したら……

そんなことを不安に思いながら、落ち着きなく外に遊びに行くくらいなら……
しばらくの間は、ずっと祖父の近くに居たいと思った。

私は、何もすることなく天井をただじっと眺めている祖父に再び目をやると……
聞こえるくらいの小さな声で鼻歌を歌った……

時々、祖父の目線が私の方を向き反応しているような気がする……

そういえば、祖父も歌うことが好きだったな……

その日から、私は毎回お見舞いに行く度に
小さな鼻歌を口づさんだ……

何度も何度も……しつこいくらいに……

いつの日か祖父の心に響くまで……

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第12話~支え合うこと~

あれから、数カ月──
始まりを告げる花の蕾が少しずつ開きはじめた今日この頃……

病院の方々の懸命な働きによって、祖父の体調もだいぶ回復し、車椅子に乗って散歩をしたり、数秒間くらいならつかまり立ちが出来るまでになっていた。

基本的にあまり親しくない人と関わるのが苦手な私は、病院関係の人とのやり取りにも精神的に少し疲れてきていたので、もうすぐ退院できるかもしれないと聞いた時にはいろんな意味でホッとした。
喋れないし、人の言葉を理解出来ないと術後宣告された祖父だったが……
私が「今日のお昼ご飯美味しかった?」と聞くと「うん」と言って返事を返してくれたことに始めは驚いた……
偶然だったのかもしれない……そんな
風に思った私は簡単な質問を繰り返し祖父に投げかけてみた……

「私のこと分かる?」

「あーあーあー」

「寒くない?お爺ちゃん」

「うん」

「早く家に帰りたい?」

「うん」

「暑くない?」

「あーあーあー」

と私の話す言葉によって返事や表情を使い分けている様子からも簡単な言葉の理解は出来ているように見える……

少し、希望の光が差してきたように感じた
数週間後……祖父は無事退院できることとなり、家族のもとに帰ってきた。

あの日、心の病により私が人生で1番辛く苦しかった時……
家族皆で、そんな弱った私を囲うようにして守り支えてくれた……

今度は、そんな風に私が注いでもらった無償の愛を返す番だ。 

そうやって、家族は支え合いながら繋がっている……

帰り道、ふと地面に目をやると……

足元にはそんな私達のように密集して重なり合う、黄色い花が咲き誇っていた。