体験記│暗い学生生活の終わり-生きづらさとともに【第5章】

体験記【第5章】心を食べて、心で生きる


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第5章~そして、私は~

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第1話~始まりと終わり~ 
 
私にとって印象的に残る言葉
二人が出会った時の第一声、それは
笑えるくらい他愛もない一言だった。

 

砂希は少しだけ、こちらに視線を向ける

私は、出会った瞬間にタイムスリップしたような少しのあいだ時間が止まったような
そんな、周りの雑音さえ全く聞こえない
不思議な感覚の中にいた……

そう、砂希との始まりもまた……
こんな風にお互いの時間と空間がシンクロ
していたんだ……

その日、確かに私には見えていた

二人を照らす少し尊く眩い光が……

……砂希ちゃん……

………砂希ちゃん………

……………砂希ちゃん!…………

…………ねぇ、答えて!……………

ドクンドクンドクンドクン

心臓の鼓動だけが胸の中を渦巻いている

私の目にもう涙は浮かんでいなかった……

なぜなら……

もう、この何百日と過ごした
胸をひき裂くように辛く、苦しかった時間に私の涙なんて枯れ果ててしまったからだ……

ただ一言、昔のように……

アナタにもう一度……

出会った時のような笑顔で……

私に投げかけてくれる、たった一言を……

 

ずっと……

ずっと……

今、この瞬間まで待っていたから……

……………………

……………………

……………………。

ピーーーーーーー

現実に呼び戻すかのように隣のチームの試合が終わった合図が鳴り響いた

きっと、周りから見た刻は幾許しか経っていなかっただろう……

バアァァァァン!!!!

そんな、頭に響くように感じた音と同時に
私の胸の辺りに大きな衝撃が走った

何が起こったのか、予想外の突然の出来事に
その情景はしっかり映っているのに
頭が全く追いついていかなかった……

コロン…………テン…テン……テン

白いバレーボールが私の胸元から床に
転がっていった…… 

ただ……

ただ……

胸が痛くて……痛くて……痛くて

しばらく、するとそれを補うように

辺りは、まるで漫画の描写のように
白黒の世界が広がっていて

私は、私という人物でありながら
その世界を傍観する第三者のような存在に
なっていた……

今思えば、そうしなければ耐えられなかったのだろう…… 

光野 真白という一人の人間として……
砂希がポンッと軽く投げつけた、空気の抜けたボールの当たった衝撃はごく僅かだった
はずだ……

 

だけど、それと同時に投げつけられた
◯◯という、二文字が私の胸をえぐったんだ……

きっと、ナイフで突き刺された傷の方が

まだ…治りが早かったんじゃないか?と
思うくらいに……

 

私の心からは痛みを伴う赤黒い何かが

何年も何年も傷が開くたびに
流れ落ちるのだから……
……大丈夫……大丈夫……きっと…大丈……

 

この時ばかりは、この言霊も私を助けては

くれなかった……。

 

私は、その呪いの二文字を今でも
「人を殺す」言葉だと強く思っている

この日から私は……

もう、他人なんて誰一人信じない。

人は、皆生まれる前も逝く時も
一人なのだから……

そんな風に絶望した。

無題1410

第2話~中学2年生~ 

 

時は流れ……

学年が一つ上にあがった
クラス替えをして砂希と離れようが、離れなかろうが……“それ”が伝染した学校内に私の居場所なんてものはない。

 

私はただ一人、ずっと机と向かい合うだけだ……

そして、今日は心から恐れていた新一年生の入学式。

そう、妹の耀が私と同じ中学に入ってくるのだ……

胸元に赤い花を飾って、これから始まる
スクールライスに目をキラキラさせながら
胸を踊らせて……

私にとってその日は恐怖でしかなかった……

妹が知っている家のお姉ちゃんとは違う、中学校でのお姉ちゃんを知られる日が刻一刻と近づいている……

この影響はもしかしたら、何の罪もない大切な家族に飛び火してしまうかもしれないということ……

そうして、伝染していった“それ”が私のたった一つの生きる希望にまで悪影響を及ぼし、いつかそんな大切な人にまで拒絶されるようになるのではないか……

そんな不安から、私は妹を傷つけてしまった

それは、入学式当日……

家族そろっての朝食の時間……

 

テーブルの上には、お母さん手作りの赤と桃色のケースに入ったお弁当が2仲良く並んでいた。

新しいセーラー服に袖を通し
これ見よがしに「見て~どう?似合うかな」
と見つめてくる妹に

「耀も大人の仲間入りだね!」と言うと

母が可笑しそうに
「アンタもまだ子供でしょ」と突っ込みを
入れた

 

そんなくだらないやりとりをしながら、家族皆で顔を見合わせて笑う……

今日もいつもと変わらない温かい光景

「ねぇ、お姉ちゃん!中学ってどんな所?」

「楽しい?ねぇ、楽しい?」

私は、一瞬戸惑ったが……
家族に悟られないよう精一杯の作り笑顔で
「楽しいよ!」と一言答えると

食べかけの目玉焼きを残し「ごちそうさま」と言って、出かける支度をした

 

「ちょっと真白!!ちゃんと残さず食べなさい!」

母のそんな一声を無視して、そそくさと玄関に向かった。

 

なぜかこの日は、家に居るのに教室に居る時のような胸のざわめきがしてご飯が喉を通らなかった……

私の薄汚れた靴の隣に新しくピカピカ光る靴が並んでいる……

玄関の扉を開けようとしたその時……

 

「お姉ちゃん!もし学校ですれ違った
ときはよろしくね~」と背後から声をかけられた

ドクン……と胸の奥で何かがざわめく

「耀……」

「何、お姉ちゃん?」

妹の眼差しはいつもと変わらない……

「学校では絶対話しかけないで!!」

その言葉に妹はキョトンと目を丸くしていた
……

私はバッと玄関から飛び出して、通学路を早足で歩いた

冷たい風が頬を擦る中、ただ妹の悲しそうな表情だけが何度も何度も頭の中に蘇ってきて

心の更に深い部分まで
痛みが染みるように………疼いていた。

私のせいで妹に不憫な思いをさせたくない

そんな気持ち……
そして、そんな私の存在を妹の方から
「学校では喋りかけないで!」と拒絶された時、私はきっと壊れると思った……
それを、避ける為に出た言葉だったの
かもしれない……

 

どれが真実なのか私にすら分からなかったが
ただ、一つだけ言えることは……

私は、私の一番大事な何かを
守りたかった……

いつまでも、あの日の「お姉ちゃん」
で居たい……

ただ、それだけだった……

再び、始まりを告げる花がひらひらと舞う中
入学式は無事終わりを迎えた。

私は教室に戻って、自分の席に座りながら
ボンヤリと考え事をしていた

……どうか、何事もなく残り2年間が過ぎますように……

そう、ふと思いながら……

昔、妹や弟と一緒に桜の木の下で舞い散る花びらを見上げながら

 

「花びらが地面に落ちるまでに、願い事を3回

唱えながら手でキャッチできたら願いが叶うんだよ!」と私が勝手に作ったジンクスの
ようなものに妹達を巻き込み
 
3人で「キャッキャッ」と笑いながら必死に舞い散る桜を追いかけている
そんな日々を一人思い出していた……

1週間後、廊下で複数の友達と仲良さそうに

喋りながら移動教室に向かう妹とすれ違ったが……
耀は、私には目もくれず……まるで他人のようにスッと立ち去っていった。
私は一人ポツンと俯きながら……
その場を少し離れてから、1度振り返った

 

……これで良かった……

そう、自分に言い聞かせはしたものの……
もう、既にグシャグシャでペシャンコの心が
これでもかと言わんばかりに更に踵ですり 潰されたような……そんな気持ちだった。

自分で蒔いた種なのに、毎日楽しそうな妹を見る度に安心感よりも劣等感に似たよう
気持ちを強く感じるようになっていく……
私はそんな自分がどんどん大嫌いになっていった……

 

耀は……私が憧れる明るくて、優しいクラスの人気者になっていった。

 

 

 

 

私が、欲しいものを全て手に入れていく耀を見て嬉しくも、羨ましい……
そんな嫉妬するような嫌な気持ちになる……
 
 
そして、妹とは自然と家の中でも昔のように話をすることは少なくなっていった……

 

……早く、終われ……

そう何度も願いながら……

 
今日も一人、教室の白い扉を開けた……
無題1479



 

 

第3話~劣等感~

 

妹の耀が中学に入学してから数ヶ月……
中学校生活2度目の夏休みがやってきた。

特に家に居てすることもなかった私は

夏休み中、黙々と勉強に勤しんでいた……

 

だが、残念なことにどれだけ勉強しても
全く勉強していない耀とそこまで差が
あるわけではなかった……

耀は私と違い、要領がよく、運動神経も万能で明るい性格だ。

同じ中学に入ってからは、何かにつけて
周りから比較されることが多くなった

そんな、ある日…… 

私が部屋で一人勉強していると
窓の外から数人の女の子の声が聞こえてきた

 

「耀ちゃーん!!遊ぼー」

家まで、友達が遊びの誘いに来てくれる……
どれだけ私が願っても叶わなかった事を耀はいとも簡単に

「今日は遊びたくない!」

ピシャッと部屋の窓を閉めて断った

……信じられない……

確かにここ数日、毎日のように
中学の友達が遊びの誘いに来ていたが

……私なら土下座しながら神様に感謝する
くらいのことなのに……

渋々、諦めて自転車に股がり帰って行く5人組の姿……
白い半袖のシャツと少しこんがり日焼けした肌が窓越しから目に映った

最近の私のマイブームといえば、使わなくなったノートにちょっとした漫画を書くことくらい……

その漫画は、主人公の可愛く明るい人気者なA子が、たくさんの友達に囲まれながら
キラキラスクールライフを送りつつ、

恋に落ちたりする青春ラブストーリーだ

 

妄想の中で生きる私

リアルに充実している妹

 

最近は、妹と一緒にどこかに出かけることも
ほとんどなくなった……

振り払ったのは私からだった……

仕方ないことなんだ……

別に特に仲が悪い訳ではない

だけど……

特に仲が良いわけでもなくなっただけ

 

 

ミーンミーンミーンミーンミーン

 

この蝉の鳴く声はすぐに聞こえなくなっていく……

夏休みの家族旅行はいつから行かなくなったっけ?

 

夏休みが終わる前のラスト1日は

心臓を雑巾絞りでもされたような不快感の中
1日を過ごす……

 

 

 
 
 
もう
庭に咲いた大きなヒマワリが枯れた……
無題1479

 

第4話~閉ざされた心~ 

 

私は、人と付き合うことを諦めた……

中学を卒業してからの、高校3年間も
ずっと誰にも心を開くことなく
一人暗い青春を過ごしながら
流れていった……

学生生活がうんざりな私は
そのまま進学することなく
就職する道を選んだ……

特に、夢や未来像がなかったものだから
早く自立したほうがマシだという理由も
あったが……

とにかくもうこれ以上、一人机に向かうだけの生活はうんざりだという気持ちもあった。 

中学の卒業式も高校の卒業式も
周りのクラスメイトが涙を流しながら
別れを惜しむ中、カラカラに渇いた目で
式が終わるとそそくさと何もなかったかの
ように校門を出た

……ふぅ、やっと終わった……

それだけだった。

むしろ、開放感が嬉しかったくらいだ……

………さよなら………

私は制服を脱いだ……

永い永い、学生生活が終わった……

その日は家族と卒業を祝った

久しぶりに今日は良い夢が見られそう
そう思った。

もう、明日からヨレヨレになった
この制服を着なくて良い

もう、明日からに傷だらけのスクール鞄を
見なくて良い

もう、明日からあの耳障りなチャイムを
聞くこともない

もう……私は自由なんだ……。

 
就職場所は、近くにある電子部品の製造工場で、4月から3か月の研修期間の後は
そこで働くことになる

 

私にとってはぴったりの
人と関わることの少ない職業に就けたことが
心から嬉しかった

制服の代わりとなる入社式に着る為の
黒いスーツを部屋にハンガーで吊した

未来の為に頑張ってお金を稼ごう!
これからも、一人だということは
変わらなくても
これからは、自分の為になる
毎日を過ごすことができる……

そう思うと、いくらか心が和らいだ

……さよなら……

………制服の私………。

 
無題1479

 

私が、仲間に囲まれながら
少し遅い青春を繰り広げるのは
まだ、もう少し先のお話しです。