体験記 心の病を乗り越えるまで―生きづらさとともに 第6章

体験記 第6章 心を食べて、心で生きる

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第6章~白い扉よ、さようなら

※気分の落ちる内容有り

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心の病になるまでの辛い体験談

無題1350

第1話~社会人1年目~ 

毎朝あの見慣れた白い扉を拝まなくて
良くなってから3か月……
研修期間を無事終えた私は今日から近くの
工場で働くことになる

学生時代の数年間、一人でずっと過ごした
せいか……すっかり人と接することを回避した
生活になっていた。

仕事が始まれば、電子部品の検査業務を
一人黙々とこなすだけだ

しかし、全く人と関わることのない仕事
なんて無い

私は、直属の上司からすっかり
「扱いにくい人」というレッテルを貼られていた……

職場の休憩時間も、誰とも話すことなく一人椅子に座っているだけの私は……あの頃と

そんなに変わっていない
時々、気を遣って喋りかけてくれた職場の先輩にも……ただひたすら愛想笑いをして余計なことは何一つ喋らず「一人にして」という
オーラを醸し出していた。
 
私が心を開いても
きっとまた裏切られ苦しむだけだ……
そんな、卑屈な気持ちで溢れかえっていた

あんなに、傷つくくらいなら……

はじめから一人のほうがまし……
そう言うかのような眼差しで会社の人達を
寄せ付けなかった。

いつの間にか
「あの子に喋りかけても無駄」
と言われるようになっていく……

私は自ら孤立した……

周りの人達は、先輩だから、社会人だから
そういう仕方ない気持ちで私に話しを
振ってくれていたことは分かっている……

だけど、些細な私の一言で
裏で 笑い物にされたりするのが恐かった

そんな、生活が心に染みついていたから……

そして、私はいつの間にか上司から煙たがられる存在になっていった

工場の中はガコンガコンという機会音と
少し鼻につく独特な匂いが立ち込めている

私は要領も悪く、物覚えも悪い、
教えてくれていた先輩はいつもイライラ
していた……

時々、私に聞こえるように
「あーーーもう!!あの子使えないわ」
と言う声が耳に入ってきた

会話をしないことは、質問を上手くできないことに繫がり、結果仕事を覚えることすら
中々上手く進まなくなる……

休日にはコミュニケーションを向上させる
為の本を読みあさったが……

結果はいつも空回り……

会社では、時々指を差して笑われるような

立場になっていく

仕事はできない、コミュニケーションはとれない私は、社会に出ても居場所なんてどこにもなかった……

ただ、毎日毎日……
同じ作業を永遠に繰り返していく……

この先もずっと
ずっと……永遠に……。
休憩時間くらいは、心を休ませて
あげたい……
そんな思いから、私は安寧の地でこっそりとお昼を食べるようになった

私の安寧の地は少し臭う

だけど、狭い空間が心を落ち着かせてくれ ていた……
無題1410

第2話~嫌気~ 

ジージージージー
昨年、教室の外から聞こえてきた蝉の声は
工場裏の木々から忙しなく聞こえてくる……

夏場の工場はいくらエアコンが効いているとはいえ、信じられないくらい暑い……

額からはポタポタと雫が滴る

お昼にコンビニで買った100円のおにぎり
たった、1個が食べきれず
残ったおにぎりが鞄の中でグシャッと
潰れていた……

私と同世代の18歳の女の子は、今頃大学にでも通って、輝かしいスクールライフを送りながら夏休みを迎え……ちょっとした夜遊びに

目覚めたりしている頃だろう……

自分で選んだ道だ……後悔はない

どの道、似たような境遇になるのなら

早くから稼いで貯金を貯めるほうが役に立つ

だから、私は意味のある苦しみに
耐えているだけ……

それだけだ……

今日は少し気分が悪かったので、休憩時間はトイレに隠らず外に出て空を見上げてみた……

灰色の空からは光すら差し込まず、少しジメッとした空気は更に気持ちを重くした。

地面には誰が吐き捨てたのか、少し溶けた飴のような塊に蟻が群がっている……
そんな蟻ですら、少し羨ましいとさえ思えた…

光がない……

言葉がない……

笑いがない……

夢がない……

何にもない私は……

毎日毎日、何を繰り返しているんだろう

そんな、空虚感や孤独感が私を蝕むように纏わりついた。

朝、ベッドの上から起きあがるのが辛いのは学生時代から何一つ変わっていない

後、何年……

何十年、こんな生活が続くのだろう

……ダメだ、あんまり悪く考えちゃ……

……ひとまず、石の上にも3年…… 
3年は頑張ってみて、どうしても 無理なら
また考えればいい!
そう、自分に言い聞かせた。
自分の中で終わりを作ることは、これ以上自分を追いつめない為にも必要なことだ……

今日は定時に終わりそうだから、早く帰って早く寝よう……

その、考え方は入社1年目18歳の女子というよりは定年間近のおじさんのようだった……

週末は仕事の疲れから動く気力を失い
部屋に閉じこもるように眠った

体力的にも精神的にもギリギリのラインでの
生活……

唯一、家族の温かさだけが
心の救いだった

飼い猫のマルはよく私に懐いてくれていて
私が寂しそうに庭先に座っていると
よく擦り寄って来てくれる

茶ブチで丸っこいシルエットはご愛嬌

今の私の何よりの癒しだった。

一日中眠そうな顔で目を瞑っているが
エサの時間だけはパチッとまん丸な瞳を
覗かせ元気に尻尾を振っていた

……可愛い奴め……

そんなこんなでマルは家族からの沢山の愛情を一心に注がれ、今に至る。

ボス猫的な風貌とは、真逆の甘えん坊さん……

そんな風に一瞬は癒しの時間を感じられた私だが……

相変わらず毎週日曜日の夕方が近づく度に
心が雑巾絞りのように捻られて、苦しくて
たまらなかった……
無題1479




第3話~不良品~

私は仕事スピードが遅く、よく周りに迷惑をかけていた……だけど焦れば焦るほど検査の

見落としが多発して上司から怒鳴られる
積み重ねてあった空の段ボールは
蹴っ飛ばされ、崩れ落ちた……

入社してから、3年目の春を迎えようと
していた

私は使えない社員として
石の上にも3年精神で今の職場にしがみついている……

私の職場には発展途上国から出稼ぎに来た
派遣労働者も勤めていた。
入社したての頃はよく片言の日本語で
話しかけてくれいたが……

社会人になっても尚、“それ”は伝染して
いった……
今では片言の日本語で罵倒しながら
私にゴミを投げつけてくる

だけど、仕方ないとさえ思っていた
私より毎日の生活がかかっていて
この仕事で故郷の家族を一生懸命支えている
のかもしれない……
そんな人達に私の製造工程を通して
間接的に迷惑をかけている……

私は、この不良品と一緒なんだ

そう一人思いながら
廃棄されていく不良品を眺めていた

職場のどこを歩いていても

常にヒソヒソと私を指差して笑う
そんな何人かの人と出会う

それが、事実だったのか
それとも心が衰弱したことによる妄想だったのか……

次第に分からなくなっていった。

日に日に痩せ細り顔色が悪くなっていく私に家族は心配して
「1度ゆっくり休んだらどうかな?」
と提案してきたが……
この時には「今の場所から1度逃げたら
もう2度と立ち直れない」「働いていない私は

生きている価値なんてない」そんな気持ちが頭を支配するようになり、毎朝起き上がることも辛くなった体を無理やり引きずりながら会社に向かった……
朝も昼も、ほとんどご飯が喉を通らない……

仕事にも集中できない、怒られるの繰り返しで症状はもっと酷くなり

夜も悪夢でうなされ、眠れなくなった。

私はとうとう、社会人として一番やっては
いけない過ちを犯してしまう

学生生活の苦しい数年間も皆勤賞だった私が

無断で会社にも行かず、ふらっと行方をくらませてしまったのだ……

朝……仕事に行く服に着替えて車に乗り込んだ
そのまま、アクセルを強く踏み込んで

私はドクンドクンという胸の鼓動と一緒に
会社とは正反対の方向に向かっている

行く宛はない……

だけど「ダメだ!頑張れ」という気持ちとは
裏腹に体が勝手に動いて……とうとう

暴走してしまった。
私は、やっぱり不良品だったんだ……

車のハンドルを握る手には、少し汗が滲んでいる…… 

もう、引き返せない……

そう覚悟した……

3日前に家族に向けて、ぎっしり文字の詰まった手紙は残してきた……

車の窓から見える世界には、色が無かった……

無題1479

第4話~さよなら~ 

20分ほど無我夢中で走ると、山の中の小さな
駐車場に車を停めた。

寂しい姿の桜の木には蕾が少しずつチラホラと広がっていた……

はじまりの季節にはいつもこの花が
舞い落ちる……

もう、今年から見ることはないだろう……
そう思いながら、山の中に入っていった。

空は今にも雨が降り出しそうなほど薄暗い、私は無心となり山の中を歩いた……

心配性な私は車の鍵を閉めたかどうかが一瞬不安で頭をよぎったが……

「まぁ……もう、どうだって良いことか」と

振り返らずに進んだ

人気が無く薄暗い山の中は不気味な静けさが漂い、時々風で揺れる木の葉のガサガサという音がやたら大きく聞こえる

普段なら感じる恐怖心はもう無い……

ある程度山道を進むと私は
ピタッと立ち止まった……

……何も考えず、手ぶらで山まで来てしまったけど……

……どうしよう……

何となく山に来たら、この世界から消えられるかもしれない……そんな気でいた……

だけど、実際には高い所まで登るのは大変だし……ロープや紐も持っていない……

私は、熊にでも食べてもらえると思っていたんだろうか?

それとも、何かの映画のように神隠しにあうとでも

「ビューーーーッ」と冷たい風が吹き抜け、私の心は木の葉のように軽く吹き飛ばされた

……ばかばかしい……

その場に私はしゃがみ込んで、久しぶりに大粒の涙を流した……

枯れたと思った涙はまだ生きていた……

苦しみや痛みや不安

そして、絶望感まで涙という物質は洗い流してくれる……

そんな涙を……

いつか誰かを想って流せる人間になりたい……そう、思った。

ゴソゴソと車の鍵がポケットに入っていることを確認して、少し安堵した私は……

……まだ、大丈夫……

……もう1度やり直そう……

「さよなら」はいつだってできるのだから……

と、自分にもう一度だけ最後に語りかけた。
無題1479

第5話~何もない世界~

第6話~家族~

第7話~第2の人生~

第8話~初恋~

第5話~何もない世界~

それから私は……   3年間なんとか死ぬ気でしがみついた会社に 一身上の都合で、退職届けを提出した。

1度は我を見失い…… 現実から逃げてしまったものの…… そこから決死の覚悟で会社に再出社した

どの面下げて出社してきたのか……

皆にそんな眼差しを向けられたが……
会社で働く社員としてそんなもの当たり前だ

私は、最後の尻拭いくらいは自分でしよう
もし、このまま逃げてしまったら…… 私は生涯それを引きずるだろう

今更、もう遅いと思う人もいるだろうが……
それでも、社会人としての最低限の誇りは
まだ少しだけ心に 残っていた

今の職務を3ヶ月全うし、新人に引き継ぎをしてから立ち去ろう……

有給休暇は3ヶ月後に消費した……

休んだら、絶対に次から行けなくなる
行かなくなるのは分かっていたからだ

最後の出社の日、周りの人は少し晴れたような明るい表情で
「まだ、若いからな!頑張りなさい」
と声をかけた

周囲からは、やっと辞めてくれたという
喜びに似たオーラをひしひし感じた。

もう、そんなことはどうでも良い……

私は、未来なんて考えていない……

ただ、死んだように次の日から部屋に
隠って眠った

ずっと、ずっと、朝なんか来なくて良いと
願いながら……

六畳一間のベッドの上で、ただ変わりばえのしない天井の模様を眺めていた…… カーテンの隙間から入り込む光の筋を遮断して、スッポリと頭まで布団を被った…… 生まれる前の赤ちゃんのような体勢が1番 安心する…… それから、何もせず1年が過ぎ去った……

私は、すっかり廃人のようになり…… 常に不安や恐怖が襲ってくるように感じる
までに心が弱り果てていた。

家族が精神科に連れて行ってくれたが、
そこで処方された大量の薬によってアレルギーを起こし私の肌は荒れ果て、爛れて醜い姿になった。

毎日の不安や恐怖から極度に外出を拒むようになり、アレルギーの治療を放置したことで
皮膚を掻きむしり、ベッドの上の布団を血で
染めた。

光がない……   出口の見えないトンネルに……   一人、ずっと彷徨った…… あれから、無駄に時間だけが過ぎる

息をすることさえ……

疲れた……

自分の首を自分で絞めてみる…… だけど途中で涙が溢れてきて、苦しみに耐えきれず手を離した。

白い首に、赤く指跡が残る

手首に刃物を突き刺しても血が流れるだけ……
昨日と同じように朝日が昇る……

死ぬことさえ、一人でできない私は

本当に無価値で無力な人間だと

ただ、ただ、そう思いながら

何度も何度も繰り返した……

例えるなら、十字架に縛りつけられながら
永遠に殺さないように……毎日ナイフを体の隅々に突き刺されるような感覚に近い…… 夢には、あの日の砂希ちゃんが現れて
呪いの二文字を吐き捨てる

心はもうすでに、ドロドロでグチャグチャ

最近は食事を口に入れても何の味も感じなくなり、一口で箸を置くようになった

季節のない世界……

時間のない世界……

何にも感じない世界……

生きていながら、光野 真白という人間は
死んだ。
第6話~家族~

日に日に、ボロボロになっていく私を
家族は自分の事のように心配してくれた……

いつも、ほとんど残す私のご飯を
毎日懲りもせず、栄養バランスや彩りを考えて作ってくれる母

仕事で疲れて帰ってきても、私の頭をポンポンと優しく叩いて、掻きむしり爛れた肌を
一緒に保冷剤で冷やしてくれる父

「今は何もしなくて良い。
ご飯だけはしっかり食べなさい」と
私の体調を1番に心配してくれる祖父

私の苦しみを自分のことのように苦しみ
涙を流しながら
「変われるものなら、変わってあげたい」
と呟く祖母

思春期こそは、少し距離が空いてしまったが
今、再び寄り添ってくれる、妹や弟

私自身には、もう何もなかったが
家という、小さな箱の中は温かさに満ち溢れていた
人生で1番それを、強く強く噛みしめた
時間だった……

私の心の蝋燭の灯りが消えそうで消えなかったのは
家族が蝋燭の周りで陣を組むように囲ってくれていたからだ

……消えるな………消えるな……
………絶対消えちゃ駄目だ………
そう小さく唱えながら……

だから、数年間 私は私自身と戦った…… 暗闇に落ちるとやってくる 「消えたい」という気持ち……   だけど、その度に家族の顔が浮かぶ……

自分を殺すことは
家族の笑顔を殺すことだ……

それに、実際に消えようとした瞬間
人間は、様々な欲望が脳裏に浮かぶ……

どうせ、最後ならもっと自由に遊べば良かった……言いたいことを我慢せずに吐きだして、行きたい所に行って、好きなだけお金を使って、友達も作って、毎日夜遅くまではしゃいだり、恋もいっぱいして…… あれ……私…… 本当に人生やり残したことばっかりだな。 どうせ、この世からいなくなるなら

明日、死ぬと思って 今日を生きてみようかな…… そんな、答えとともに蝋燭はもう1度
勢いよくボーっと燃えはじめた……

部屋に引きこもってから、3年間の長い長い
自分との戦いはその瞬間、終わりを告げた。

……新しい、光野 真白は その時、生まれる……


第7話~第2の人生~

「あっ、お姉ちゃん桜の蕾が咲いてきたね」そう言って妹が指差した木は、私がリハビリを始めてから毎日歩いた並木道に佇んでいる

緑の葉が黄色から赤になり茶色に染まって
枯れ落ちて雪化粧を纏って再び桃色に染まるまでずっと見上げた景色

妹と弟が私を守るように一緒に歩いてくれた
思い出の道

一時期は拭っても拭えきれない不安から
一歩も外に出歩くことが出来なくなった私の手を引いて、ここまで付き添ってくれた

……ありがとう………皆……

もうすぐ、あの季節がやってくる

私はとうとう一人で出歩くことが
できるまでに回復した……

今日は、数年ぶりに一人で本屋さんまで
雑誌を買いに行く予定だ

久しぶりの店内にはまばらに人が散らばっていた

……大丈夫……大丈夫…きっと大丈夫……

私は一歩踏み出した

ドアを開けた瞬間に
「いらっしゃいませ」という店員さんの
明るい声に少しビクッとはしたが…… 少し俯きながら白くピカピカ光る床を辿るように、ファッション雑誌のコーナーを探しつつ向かった。
そこには、可愛くてお洒落なモデルさんを
表紙に沢山の雑誌が並ぶ

私は、そこから一冊選ぶと、少し周りを見渡しながらレジまで持っていった

「こちらにどうぞ!」
そう言って和やかに笑う定員さんの顔を
見て少しホッとする

私は久しぶりに使う自分の財布から、お金を取り出し支払いを済ませた

「ありがとうございます」
ビニール袋に入れられた本を手渡される
と私も少し微笑んで
「ありがとう」
と伝えた。 たったこれだけの当たり前のやり取りができるようになったこと…… それだけで、ドクンドクンを胸が躍るような
達成感を感じた。

外に出ると、春の優しい風がビューッと私の胸を吹き抜けた。

私は、まず始めに新しい人生で変えたいこと
挑戦したいことをノートに書くことにした……

ノートにはまず…… 可愛くなりたい→化粧を学ぶ 少女マンガのような恋をしたい→
出会いの場に行く

友達を作る→サークルなどに参加する と、どのようになりたいのか、その為には
どんな行動をしたら良いのかを書き出して
次の日からすぐ実行した。

頭の片隅には「明日にはこの世にいない」
かもしれない……という思考を植えつけて

キラキラ光るアイシャドー
可愛いハートモチーフのチーク
ときめくピンクの口紅など
煌びやかな化粧品を購入して、毎日のようにメイクを研究した。

回数を重ねるごとに、私の顔にはこういうメイクが1番似合うというものを見つけられるようになり……家族からも
「わぁ~別人みたいだね」と言われるまで
になった

洋服を選ぶセンスも良くなり
私は、ひとまず見た目から違う自分になることに成功した!

今まで、ひたすら貯金してきたことが
はじめて、自分の人生で役立った
そう、改めて実感する

後は、とにかく人と出会いに行く

それだけだ……

私は何の迷いもなく近くで行われる
一人参加可能な街コンに参加した

……明日には私は消える!……
……それなら、何も恐くない……

はじめは人見知りして喋れなかった私だが、めげずに数回通っているうちにだいぶ人と話すことが苦にならなくなっていった……

そんなある日、一人の男性と出会う……

その人は目が細くて垂れ気味でいつも笑顔に見えるような年上の男性だった。 第一印象から、なんて優しそうな人なんだろうと思い好感を抱いた。

その日の街コンは気になった異性にカードを
送ることで
「あなたに好意をもっていますよ」と伝えるシステムで、私はまさかそのカードをその人から受けとり 「今日この後、二人でご飯でも!」と誘われる急展開になるとは夢にも思っていなかった…… 彼は、新井優士(ゆうし)
30代会社員で私と住んでいる場所も
近かった。 そんな新井さんと私は、出会いの場から歩いて数分の距離にあるカフェに向かった ドクンドクン……

人生で初めての異性と二人っきりの食事に 胸を踊らせる……    光野真白 24歳    そんな春の出来事。

第8話~初恋~

二人とも、まだお昼を食べていなかったので
パスタとドリンクセットを注文した……

店員さんが立ち去ると二人の間には 少し気まずい沈黙が続いた。

「あのっ!」

先に私から沈黙を破った

「新井さんは私のどこが良かったんですか?」

新井優士はこちらを見ながらニコッと
微笑むと

「一目見た時から、可愛いなって思って」
と言った

……私…一生懸命メイク学んで良かった!……

人生で初めて異性から「可愛い」と言ってもらえたことがすごく嬉しくてちょっと下を向きながら

「そんなことないですよ」と嬉しそうに
答えた

そんな、二人は今日初めて出会ったとは
思えないほど穏やか空間の中…… 笑いの絶えない時間を過ごした。   はじめこそは、パスタ上手くフォークに
巻けずに何回もお皿にポトッと落とすほど
緊張していたが……
新井さんは本当に優しく、穏やかな人で
私はいつの間にか家族と接しているような
感覚にさえなった

「僕のことは、 優士って呼んでくれて良いから」と新井さんは言ってくれたが……
さすがに、いきなり呼び捨てにするのは抵抗感があるので 「じゃあ、優ちゃんはどうですか?」と 提案した 「アハハ、優ちゃんって女の子みたいだね」 

「あ……優さんの方が良いですよね」
と少し焦ったように言うと

「“白ちゃん”から呼ばれるなら
         何でも良いよ」
そう、言って私の空いたグラスに水を酌んでくれた

「ありがとうございます」

「うん、あと敬語じゃなくて良いからね」

「あっはい……えっ、違っ、うん?」

二人はまた笑いあった

……白ちゃんかぁ…… ……なんだか、懐かしい響き……

その日は部屋に戻ってからもずっと…… 二人のやり取りを思い出しては、枕をギュ~っと握りしめたり、コロコロ転がったりしていた。

あの花がひらひらと舞い散る24回目の季節……

私の人生の中で1番、綺麗な桃色に染まった

まだ、この頃……私にとっての恋は ただ、胸が弾けるような甘く甘く楽しいものでしかなかった……

恋は良い意味でも悪い意味でも 心の波を揺れ動かす……   そんな風に実感するのは まだ少し先のこと…… 「心の病は完全に治すことは難しい」
その言葉は医師から告げられた。

だけど、私はそれを背負いながら
「自分らしく生きたい」そう願っている……

無題1384