体験記│コミュ障克服女子の少し遅めな恋愛ストーリー【第14章】

体験記【第14章】心を食べて、心で生きる


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第14章~恋とは~

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第1話~君に恋する~

第2話~タイムスリップ~

第3話~黒猫と白猫~

第4話~恋に溺れる~

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第1話~君に恋する~

 

颯斗くんと付き合うようになってからの
私はまるで若返ったかのようにアクティブに
行動するようになっていた……
学生時代に憧れていた浴衣デートを実現するために今日は近くで行われる花火大会に足を運んでいる。

颯斗くんは紺色の浴衣、私は紫ピンクの浴衣を着て赤い提灯がぽーっと照らす夜道をカランコロンと音を立てながら歩いた。

「真白さん、浴衣似合いますね!」
彼はそう言いながらこっちを見てニコッと笑った……

私は恥ずかしさを紛らわすように
「でも、この浴衣お母さんのお古で無理やり
タンスから引っ張りだしてきたから穴とか
空いてなくて良かったよ」と少し戯けた

 
「そんな風に全然見えないですよ!」
「それなら、よかった!ありがとう」

 

方向音痴のため、人混みの中すでに1度はぐれかけた私に……今度こそはぐれないようにと糸で結んだかのようにぎゅっと繋いでくれている颯斗くんの握った手は大きくてゴツゴツしていて安心感がある……

そんな、3つも年下なのに一緒に居て頼りになる彼に私は会えば会うほど惹かれていった。

「真白さん、何か食べますか?」

「うーんお祭りと言えば林檎飴だけど……」

「そうなんですか?」

「うん、なんか絵に書いたようなヒロインが
持ってたら可愛いイメージだし!」

「アハハッ、何だそれっ」

「でも、実際お腹を満たすにはたこ焼き
とかのほうが良いんだけど」

「じゃあ、たこ焼き買いに並びましょうか?」

「でも、たこ焼きは青のりが歯について
幻滅されるシチュエーションになりそうで
こわいし……」
恋愛経験の少ない私のお祭りデートのイメージは、大抵昔から好きな少女マンガが元になっている………

「大丈夫ですよ!歯に青のりがついてたくらいで彼女を嫌いになんてなりませんから!」
よほど私の言動が可笑しかったのか颯斗くんはさっきからずっと笑っている……

「俺はかき氷も食べたいな!」
颯斗くんは目の前にちょうどあった、かき氷屋さんを指差した。

「じゃあ、かき氷も買って行こう!」
そう言って、私達はかき氷屋さんの列に
並んだ

私がまた一人でモヤモヤと考え込んでいると
颯斗くんがじーっと私を見つめてくる

「今度は何、考えてるんですか?」

「えっ、いや……かき氷の味どうしようかな
思って……レモンにしようかなと思ったんだけど舌が黄色くなったらみっともないし
いちご味にしようかなって……イメージ的にも
いちご味のほうが可愛いし」

「ブハッ」

「ちょっと人が真剣に悩んでるのに!!」

「アハハっ、本当に真白さんって
面白いですよねー」
そう言って、チラッと口元から八重歯を見せながら笑う颯斗くんを見ていると……
キュッと胸が締めつけられた。

「やっぱり、レモン味にしよう!」

「あれ、舌が黄色くなるから嫌なんじゃ?」

「もう、いーよ!黄色い舌のモンスターで」

「いちご味のかき氷なんか食べてなくても
真白さんは俺にとって可愛いですよ」

「……っ」
私は何も言えなくなって……ただ、ただ
目の前の年下の男の子に翻弄されていた……

二人は、ブルーハワイとレモン味のかき氷と
たこ焼きを手に花火が良く見える穴場スポットに小さなシートを敷くと……
寄り添うように座った。

もうすぐ、花火が上がる

お互いに真っ青と真っ黄色に染まった舌を
見せ合いながら、ふっと笑い合うと……
しばらく見つめあって
沈黙した……

夜空には「バーーーーン」という大きな音とともに、二人を照らす鮮やかな光の花がキラキラと舞い散った。

その勢いに負けないくらい……
私の胸から大きな鼓動が脈打っていた。

無題1479

第2話~タイムスリップ~

 

ある日のこと、颯斗くんに何となく話した
ひと言がきっかけとなり

今、私は

風に揺られながらギュッと彼の背中にしがみ付いていた……

あれは確か、2日前のこと……

二人が出会ってからというもの、週に3回の
ペースでデートを積み重ねてきた……

休日は映画に水族館、ショッピングモールでのデートやお祭りに海までドライブ、平日の仕事終わりには一緒に夜ご飯を食べに行ったりと、一通り定番デートはこなした……

「真白さん、
今度はどんなデートがしたいですか?」

「うーん……どんなデートでも良いの?」

「もちろんですよ!」

「じゃあ、今から話すこと聞いても笑わないって約束してくれる?」

彼は一瞬沈黙してからニコッと笑い
「もちろん」と頷いた

「実は私、前にも一度言ってたと思うけど
……学生時代に全く青春っぽい日々が送れなくて……だから、その……制服でデートって憧れ
てて」

「アハハっ、制服デートはさすがに23じゃ
キツいしパスですよ」

「いや、私アラサーだしもっとキツいし
さすがに無理だよ!」

「なら、良いんですけどね!」

「そうじゃなくて、放課後に夕日をバックに自転車の二人乗りしているカップルがずっと憧れで……一度経験してみたかったなって
思ったり、思わなかったり……」

「ブハッ!!アハハっ」

「笑わないって言ったのに!」

「そんなことで良いんなら
やりましょうよ!夕方二人乗りデート!!」

……という、流れになって今に至る。

自転車ではなく、バイクの二人乗りという
シチュエーションにはなったものの……
私はすっかり学生時代に戻ったかのような
気分で夕日を眺めていた

「自転車なかったんでバイクになっちゃいましたけど……
やっぱり自転車じゃなきゃダメでした?」

「うううん!最高!!本当にありがとう」
そう言って、颯斗くんの背中にギュッとくっついた

「アハハっ、そりゃ良かった」
黒いバイクは川沿いの道をゆっくりと走り抜ける……二人乗りの自転車のように穏やかな風を纏い、オレンジ色に染まる川を辿るよう……

 

もし、颯斗くんと私が学生時代に出会っていたらこんな風に毎日一緒に過ごせたのかな?
辛かった記憶を打ち消すように……
私の心にはら二人の新しい思い出が刻まれていく……

今、あの日の私にひと言メッセージを送るとするなら……
「光野真白という、一人の人間を見捨てないでくれて、ありがとう」

ただ、そう伝えたかった。

二人を乗せたバイクはブルンッブルルルと
エンジン音を立てて辺りが真っ暗になるまで
行くあてのない旅をした。

どんな人間でも人生で1度くらいは本気で
恋をすることがあるという言葉を耳にしたことがあるが……
今となればそれは嘘ではないのだろうと
思う……

人が嫌いだった……自分が嫌いだった……
そんな私が、恋をしている……

自分でもそれは不思議で、未だに戸惑うこともあるけれど……

今この瞬間しか味わえない想いを

今まで感じとれなかったその感覚を

何も考えずに思いっきり堪能して……

そして……いつか

その全てを自分の心の中で積み重ねるように
大事に抱えて……進んでいこう。

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第3話~黒猫と白猫~

 

彼と付き合いはじめてから、早1か月……

今日は、颯斗くんの家に遊びに来ていた……

彼は、会社から近い距離にあるマンションの

2階の1室を借りて一人暮らしをしている。

 

そんな、彼の家でDVDを借りて一緒に見るのが最近のデートの日課になっていた……

二人で色違いで買った親指サイズの小さな猫の縫いぐるみがテレビの横には飾られている

白猫の方が私で、黒猫の方が颯斗くんのだ

時々、部屋にいて暇になった時は……
まるで子供の頃に戻ったかのようにフザながら、その親指サイズの縫いぐるみを使って

2人で遊んだりもした。
第3者から見れば良い年をして「なんて、痛い光景だ」と思われるかもしれないが……
そんな馬鹿なやりとりも好きだったりした……

 

私が白猫の白ちゃんを片手に

「トコトコトコトコ」と言いながら
颯斗くんの持つ、黒猫の黒ちゃんの傍に寄っていくと……
黒ちゃんは「トコトコトコトコ」と言いながら白ちゃんから逃げていく……
白ちゃんが「わーん」と泣いたふりをすると
颯斗くんの黒ちゃんは白ちゃんの方に
「トコトコトコトコ」といいながら戻ってきて慰めるように寄り添った

 

そんな、黒ちゃんに「バーーーーン」と
白ちゃんは体当たりして弾き飛ばすと……
颯斗くんはポカーンと口を空けながら

「アハハっ、こらっ!何で飛ばすんだよ」と言って、私を後ろからギュッと掴まえるかのように抱きしめた

何をしていたって、颯斗くんといる時間は
楽しくて幸せで私はまた少し周りが見えなくなるくらい彼のことを好きになってしまっていた……

だけど、2人の愛情のバランスが偏りすぎると上手くいかなくなる……

私が、
好きで好きで会いたくなるほど……
好きで好きで追いかけてしまうほど……

彼の気持ちは遠くに離れていく。

こんな悲しい現実だけは、少女マンガの世界で見覚えのある1ページのように……
特に何もしなくても、その通りの展開になってしまうのだから……
現実って、酷だなって改めて感じた。

颯斗くんからの連絡頻度は日に日に少なくなっていき、私が「会いたい」と言っても
「今は忙しいから」と返ってくることが
増えていった。

まだまだ、恋愛初心者の私に恋のかけひきなんて器用なことができるはずもなく

彼との間には次第に溝が見えはじめてきた……

 

颯斗くんは、一人の時間を大切にするタイプの子だったのに……
この頃の私は過去にずっと孤独だった経験の反動もあり……彼とできる限り「ずっと一緒に居たい」と思っていた。

もちろん、元彼に依存しすぎた経験もあり
少しは自分の時間を大切にすることも心掛けてはいたが……それにしても、会えない時間や 連絡をする頻度に対して私は不満を募らせていた……

だけど、私が我慢すれば良いだけのこと……
依存しすぎている私がいけないんだと思うほどに、少しずつ気持ちが疲れてくるようになり……
私はついにある日、彼に不満をぶちまけてしまう……

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第4話~恋に溺れる~

 

「仕事で忙しくて会えないのは分かるけど
忙しくてもメッセージくらいは見れないの?」

「せっかく付き合ってるのに寂しいよ」

私は、そんな風に電話で彼に伝えた……

彼は、「ごめん……」と一言いうと
「今日はもう疲れたから寝るよ」と
話しを遮った。

私は別に謝ってほしかった訳じゃない……

ただモヤモヤした気持ちが募っていくばかりだったので、話しあってお互いの納得のいく範囲で二人の関係の改善策を見つけたかっただけだ……

こんな風に不安になることは優ちゃんの
時はなかった。もちろん元彼と比較するなんてことはしてはいけないことだと重々承知しているし、颯斗くんしか持っていない良さだって分かってる……

だけど、私達の考え方や価値観には違いが
多すぎた……

はじめのうちは、私が合わせれば良いだけのことだと我慢できていた……
でも、ここ最近は何だか心が疲弊してきている……
それは、きっと颯斗くんだって同じだったのかもしれない。

1週間前……

私は結婚のことについて、まだ早いとは思ったもののそれとなく颯斗くんに聞いてみた……彼は「結婚はまだ考えられないかな……
今は仕事に集中したいから」と答えた

 

入社してまだ日が浅い23歳の男の子……
当たり前の回答だと思う

だけど、私はどう数えても
もうアラサーだし、結婚願望だって強い……

そんな、事実を忘れるくらい私は恋に溺れていたのだ……

……颯斗くんともっと一緒に居たい……

あれから、私達の関係は少しずつ変わっていった。

久しぶりのデートだと言うのに、颯斗くんは
全く私の手を繋いでこなくなった……

少し寂しく感じた私は、思いっきって今日は自分から繋いでみたが……
数分もしないうち にその手は振りほどかれてしまった……

私はいつもより歩くペースが早い颯斗くんを追いかけるように少し早足で着いていく……

「颯斗くん!」

「ん、どうしたの?」

「うううん……別にちょっと呼んでみただけ」
振り返ったいつもと変わらない彼の表情を
見て少し安堵した。

そんな時……

偶然にも前から20代前半であろう可愛い女の子とすれ違う……チラッと私は彼のほうを見ると、その女の子を密かに目で追っているのが分かった……

 

……仕方ないよ、可愛いし若いし誰だって
見たくなるよね……
私は不安になる自分に言い聞かせた。

最近、颯斗くんの背中をこんな気持ちで
見つめることが多くなったな……

だけど……きっと、私がまた頑張れば
いつかはこっちを振り向いてくれるよね?

そんな必死な思いで、彼の好きな料理を振る舞ったり、彼の好きな場所でデートしたり、自分自身も更にメイクを研究して若作りしてみたが……颯斗くんにはこれっぽっちも
響かなかった。

人生で生きづまった時のお約束……

再び、私は過去の恋愛を思い出しながら
1度今の自分を見つめ直してみることにした。

そして、問いかけた……
……今の自分は好きですか?……と

静まりかえる部屋の中でふと、そんな1つの
結論がポロリと胸から零れ落ちた。

……私、今の自分が好きじゃない……。

今日は、また彼の家で彼の好きなDVDを一緒に見ながら1日が過ぎていく……

テレビの横の白猫と黒猫の縫いぐるみが
真っ黒なつぶらな目でこちらを見ている

「ねぇ、颯斗くん……」

「ん?どうしたの」

「颯斗くんは今私と付き合ってて楽しい?」

「…………」3秒くらい間が空いてから
彼は「何でそんなこと聞くの?」と

テレビから視線を外してこちらを見た

 

この時、私は
賭けをしていたのかもしれない……
それも捨て身の……

「私達…………もう別れる?」
そう、ポツリと呟いた

無題1479

第5話~本当の気持ち~

……別れる?そんなの嫌だ……
なのに、私はその言葉を口にしてしまった。

だけど、彼が私とまだ一緒に居たいと思ってくれているならきっと、「嫌だ」そう引き止めてくれるかもしれない
そんな、浅はかな期待をしてしまった……

「真白さんがそうしたいなら……」
颯斗くんはあまり間を空けずにそうスラッと答えた。
まるで、その言葉を待ち受けていたかのように……

私は、全身から体温が抜けていく感覚を久しぶりに味わった

……自業自得だ、泣くな!……

私は、涙をぐっと抑えながら年下男性に縋り付く、アラサーの惨めな女に成り下がることを恥じらってか、どこか気丈にふるまってみた……
最後くらいは、かっこ良い年上の女性らしくありたい
そう、思ったのかもしれない……

「私の荷物まとめてくるね……」

「うん」

颯斗くんは少し申し訳なさそうな顔をしながら、数分後……
私を玄関まで送り出しにきてくれた……

「じゃあ、これで最後だけど元気でね」
私は、今にも涙が溢れ出しそうだったので
そそくさと玄関の扉を閉めようとした

「あっ、真白さん!」

そんな、呼び止めてくれた颯斗くんの声に過剰に反応した

「ごめんね……いろいろありがとう」

期待していた言葉ではなく私は肩を落としたが、それを悟られないように

「颯斗くんと出会えて楽しかったよ!
こちらこそ、ありがとうね」
そう、精一杯の作り笑顔で彼を安心させた。

パタン……と扉が閉まると
私は少し扉の前で立ち止まり、少し歩いては振り返ってみたりした……

颯斗くんのマンションから少し離れた所にある、二人でよく一緒に通ったコンビニに用もなく立ち寄り……しばらくしてから、その見慣れた風景を惜しむように遠ざかっていった。

……私って本当に諦めの悪い人間だな……

もし、私が颯斗くんと同い年だったら……

「別れたくない」
そう、泣いて縋るくらい好きだった……。

そんな風に一人考えながらも家に辿り着くと
しばらく部屋に引き隠って、時間を忘れたように思いっきり泣き続けた。

涙が痛みや苦しみを流してくれるまで……

無題1479

第6話~友~

太陽の光が眩しかった夏が通りすぎて、
夕方になると半袖では少し肌寒く感じるようになってきた……

今日は、久しぶりに愛美ちゃんと二人で
飲みにきている

「結局、私が大人として未熟で
駄目だったんだよ」

「まぁまぁ、今日くらいはさー」
「白ちゃんも、自分を責めずにいろいろ
吐き出しなよっ!」
愛美ちゃんは優しく私を宥めながら、話しを聞いてくれていた。

……私……
……愛美ちゃんと出会えて本当に良かった……
そんな風に思うと、お酒の力もあってか
ますます泣けてきた。

「よしっ!!白ちゃんこんな時は相手に
怒りをぶちまけたらラクになるよ!」

「怒り……?」

「そうそう、私をその颯斗くんって子だと
思って馬鹿野郎ーーーー!!」とか
「アンタより良い男掴まえてやるわー!!!とか、言ってみ!」

「分かった!やってみる。」
私は、居酒屋で出されたカクテルを片手に
ぐっと飲み干すと涙声になりながら

「私のバカヤローーー!!」

「颯斗くんのことがまだ好きだーーー!!」と控えめに叫びながら鞄の中から親指サイズの白猫の縫いぐるみを愛美ちゃんに向けて
投げ捨てた

「何これっ?」
愛美ちゃんはそれを拾うとまじまじ見つめた……
「颯斗くんの部屋に飾ってたお揃いで買ったやつ……もう愛美ちゃんにあげる」

「えっ、持って帰ってきたんだ!
未練たらたらだね」

「うるさいよー!その子に罪はないじゃん」

「私が颯斗くんだったら、家にあるもう1匹も
一緒に持って帰って欲しいと思うわ」

「なんで?」

「夜になったら白ちゃんの怨念で動き出しそうだから」

「ちょっ、何それ!愛美ちゃんヒドっ」
そんな風に下らないやりとりをしながら
愛美ちゃんと喋っている間は辛さや寂しさを
忘れられていた……

そんな彼女の明るさや優しさに私は本当に
感謝している。

しばらくしてから、海くんも合流して
3人で飲みはじめることになったが……
颯斗くんは海くんの会社の後輩ということもあり、いろいろ向こうからも事情を聞いていたのだろう

「なんか、白ちゃんごめんね」と私の顔を
見て、すぐに謝ってきた

「なんで、海くんが謝るの?」

「颯斗くんに出会えたことには感謝してるよ!楽しい夏の思い出ができたからね!」と少しまだキリキリ痛む胸のうちを隠しながら
私は笑った。

海くんはホッと安心したかのように少し表情が柔らいで、いつものように元気な声で
「それじゃあ、久しぶりの3人の出会いに
カンパーイ」と言い放った

「カチーン」というグラスの音とともに
まるで、このグラデーションの入った賑やかなカクテルのように明るく楽しい時間を満喫することができた。

……私は、もう一人じゃない……

それだけで、どれだけ幸福なことか……

分かっているのに……
心は全く私の言うことなんて聞かない……

猫のような大きな目の男性と擦れ違う度に……
街を走る黒いバイクを見かける度に……

自然と目で追ってしまうのだから……


第7話~アコースティックギター~

久しぶりに、チャットグループ
「馬鹿になるほど幸せだ☆」
にメッセージを打ち込んだ。

  馬鹿になるほど幸せだ☆(4)

〈私〉みんなー!久しぶり♪

〈爽くん〉久しぶり~(●^o^●)

〈赤西くん〉おぉ!久しぶり(´V`)♪

〈私〉最近一人でギターの練習に明けくれてるんだけど……ちょっとモチベーション下がってきちゃって。゚(゚´ω`゚)゚。

来週の日曜空いている人いたら一緒にスタジオ練習行かないかな?|ω・`)チラ

〈赤西くん〉ごめん!
ちょっと最近忙しくて(´`:)

〈私〉そっか!了解(..;)

〈高ちゃん〉ごめんなさい。私も同じく……

〈私〉そっか!いきなりだったしね(o_ _)o
また、行こうね(*⌒▽⌒*)

まだ、失恋から立ち直れていないこともあり
……立て続けに二人にフられてしまった…と
正直少し落ち込んだ。
「ごめん」という言葉に今はなぜか過剰に反応してしまう……

〈爽くん〉僕は大丈夫だよ!(^^)

私の空想上の爽くんは、後光が差した空に
浮かぶ雲の上で座禅を組んでいるかのように
に見えていた……

〈私〉本当に!!
じゃあ一緒に行こう(〃'▽'〃)

〈爽くん〉('-^*)ok

ということで、今日は二人でスタジオ練習に
向かうことになった。

「爽くん!久しぶり」

「久しぶりだね!8月の演奏会以来じゃないかな?」

「確かに!あれからいろいろあったから……」

「前に言ってた彼氏とは順調?」

馬鹿になるほど幸せだ☆グループの3人には
まだ、彼氏ができたことしか伝えていないまま演奏会以来会っていない

「まぁ……あれだね。人生そんなに上手くはいかないよ」
私は苦笑いしながら、スタジオの受けつけを済ませた……

「うん、まぁ、あれだね……」

「あれだよ……」

「あんまり、一人で抱え込まないでね」
そう言うと、爽くんはいつものように優しく笑った……
今の私にはそんな一言が身に染みる

「ありがとう、爽くん」
「焼け食いは体に良くないからね!
変わりに最近は焼けギターしてたよ」

「アハハっ、焼けギターって何それ!
初めて聞いた」

「おかげで手にギターだこができたしねー」
そう言って、手を爽くんの方に開いて見せた

「良いことだね!」

「食べすぎて、おデブになるよりはねー」
二人はケタケタと笑いながら、練習用の小さなホールに入ると黒いギターケースから
ギターを取り出しチューニングをはじめた

「じゃあ、とりあえず1度一緒に弾きながら
白ちゃんが苦戦していたFコードが弾けるようになったところ見せてもらおうかな!」

「うんっ!!任せて」
そう張り切ると、私は初心者向けのコードで弾ける簡単な曲をチョイスしてピックを握り、爽くんにアイコンタクトを送った……

……一人で弾くより心強い……

そんな風に爽くんの存在に感謝しながら……

二人のギター演奏はピタッと綺麗に重なり合い、優しい音色がスタジオホールに充満した。

無題1479

 第8話~声から伝わるモノ~

私のギター演奏がサビに差し掛かると
同時に爽くんが歌いはじめた
私の辿々しい演奏にゆっくりと合わせるように優しい歌声が部屋に響き渡る

……爽くんって、癒しの塊からできてるんじゃ?……と思うくらいに彼と一緒にいると
どんな時でも穏やかな気持ちになれる

それは、はじめて彼が「始まりの音」で弾き語りを披露してくれた時にも感じた。

……あれ?……おかしいな私……
こんな簡単に涙が流れるような人間じゃなかったのに……

ずっと、ずっと仕舞い込んできた私の心の
音色がまるで弾けたかのように……

無理矢理せき止めてしまった心を流れる川が今までの分を取り戻すかのように
ドッと勢いよく溢れて止められなくなった。

「えっ、白ちゃん大丈夫!?」

……人に涙を晒すことなんて恥ずかしい……
でも、止めようとしたら余計に流れ落ちてくる
「ごめん、大丈夫……」

爽くんは目を丸くして心配そうにこっちを
見ている。

「ちょっと化粧直してくるね!」
私は慌てふためきながらバタンと部屋の扉を開けて逃げるように走り去った

……どうしよう。せっかくの楽しい休日を
私のせいで台無しにしてしまう……

……早く涙よ止まれ!!……止まって!!……

私はトイレの鏡を見ながら涙を拭いて
深呼吸をした。

それから、ひと息ついてスタジオホールに戻ると……爽くんはギターを弾きながら優しい声で一人歌っていた……

「あの……ごめんね」

「一人貸し切り状態で少しの間だけど歌えて
楽しかったよ」とニコッと優しい顔で笑うとハイっと私にペットボトルに入ったアイスティーを差し出した

「えっ、買ってきてくれたの?」

「僕も喉が渇いたからついでにね」

「ありがとう……」

……本当に良い人だな……

私にとって数少ない男友達で音楽仲間……
ずっと、ずっと今度こそ大切にしていきたいな……
私はその時そんな風に一人で考えていた

私が再びギターを弾きはじめると、爽くんは

「Fコード普通に弾けてるね!」
「すごく一人で頑張って練習したんだね」と気づいてくれたので、なぜか再びうるっとしてしまったが……
今度は、それを飲み込んでニコッと笑った。

「私も爽くんみたいに上手く弾けるように
なりたいな……」

「すぐになれるよ、白ちゃんなら」
そう言いながら、難しいコードの押さえ方や
ストロークの仕方など丁寧にアドバイスしてくれた。

二人は練習が終わるとギターケースを背負いながら河川敷を散歩した。

一人になるといろいろ考え込んでしまう私に爽くんは気を遣ってくれているのかもしれない……
「爽くん、今日は本当にありがとう」

「こちらこそ!楽しかったよ」

「本当に?」

「うん!また行こうよ」

「うんっ!」

少し冷たくなった夕方の風が気持ち良い……

「はいっ!」
唐突に爽くんは私の方に握り拳を作って
差し出してきたので一瞬何のことか分からず
戸惑ってパーの形にした手を差し出してしまった
「アハハっ、じゃんけんじゃないよ!」

「あっ、そうだよね?」
私が手をグーの形に握るとコツンとそこに
爽くんの握り拳が当たった

「お互い頑張ろう!!」そう言って
「じゃあ、僕はこっちだから」と満面の笑みで手を振った

「うん!またね」
不思議とその握り拳から元気が注入されたように、私はなんだかその日から少しずつ前向きな気持ちで過ごすことができるようになっていた……

……失恋で泣けるなんて、随分人間らしい
感情が出てきたんだな……

……私、きっと今すごく幸せなんだ……

そんな、風に過去の自分を振り返りながら
少しずつ、少しずつ
この胸の痛みを浄化していった。