体験記 あがり症克服と第二の人生-生きづらさとともに 第13章

体験記 第13章 心を食べて、心で生きる


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第13章~初めてのステージ~

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第1話~音楽スタジオ~

第2話~重なる音~
第3話~新しい出会い~

第4話~年下の彼~

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第1話~音楽スタジオ~

海の日も通り過ぎた頃……人生初バーベキューを開催してからというもの、まるで私は網の上で焼くお肉に取り憑かれたかのように週末になる度に「バーベキューしたい!」と言っては皆を誘っていた

これにはさすがの愛美ちゃんも
「また、バーベキュー!?」と苦笑いする
ほどだ
まぁ、バーベキューを口実にしてただ単純に皆に会いたかった、ということもあるが………

若い時の青春を取り戻すかのようにはしゃぐアラサーの私に、最後まで付き合ってくれた仲間には本当に感謝の気持ちしかない。

そんなこんな遊んでいるうちに……
8月に予定されている音楽サークル
「始まりの音」の演奏会まで残すところ2週間を切っていた。

私は、時々赤西くんと一緒にカラオケに足を運びながら歌の練習をしたり、予定が合わない時には一人でもカラオケに行くようになっていた……
友達が全くいない頃の私は逆に一人カラオケなんて恥ずかしいと思い込み行けなかったのだが……不思議と今では全く平気になっていた。むしろ、一人カラオケの楽しみ方さえ
マスターするほどだ!

そんなふうに日々、歌の練習を積み重ねながら……今日は爽くんと高ちゃんも誘って4人で近くの音楽スタジオを訪れた

スタジオに入るのが初めてだった私は、店内に入って辺りをキョロキョロ見回しては
見慣れない光景に目をキラキラさせながら
興奮していた。

「白ちゃん、スタジオ初めて?」
その様子を見ていた爽くんが少し微笑みながら尋ねてきた
「あっ、うん!なんだかお洒落な店内に
ちょっとテンションが上がっちゃって」

「アハハ、そうなんだね!」

赤西くんが受け付けを済ますと、機材が並んだ小さなリハーサルスタジオに案内された

リハーサルスタジオに入る前に隣のスタジオから黒いギターケースを背負いお洒落なロックファッションに身を包んだ派手な赤い髪の男性とすれ違った

………すごいっ!芸能人みたい!!……

良い年をして、私はなぜか自分もお洒落な

ミュージシャンの世界に一歩踏み込んだような気分になり……少し胸を踊らせながらホールスタジオに入った。
「あれ?そういえば赤西くん背中に
背負ってるのって?」

「あぁ!せっかくスタジオ入るならって
エレキギター持ってきた」

「おぉ!ってことは、赤西くんのギター演奏が初めて見れるんだね」
爽くんは嬉しそうな表情をしながら、自分のギターケースからアコースティックギターを
取り出した

「……。私だけ楽器持ってないのって
何か、寂しいね」

「真白さんもギター持ってるんじゃなかったっすか?」

「持ってるのは持ってるけど、まだ始めたばっかだし人前で見せれるほどじゃ……」

「アコギっすよね?」

「うん!」

赤西くんはチラッと爽くんの方を見た

「僕で良かったらいつでも教えるよ!」

「えっ、良いのっ!ありがとー」

そんな3人の会話を横目にいつもと変わらず
一人黙々とベースのチューニングを始める
高ちゃん

「そういえば!高ちゃんはベースを始めて
どのくらいになるの?」
私はマイクをセッティングしながらそんな
彼女に問いかけた

「……社会人になってしばらくしてから
趣味で始めたから3年くらいかな……」

「へぇ~そうなんだ!3年でそんなに上手く
弾けるようになるなんてすごいねっ」

「私の兄がベース弾いてて、少し教えてもらったりしてたから……」
高ちゃんはそう言うと、少し照れたように
フィッと視線を私から逸らした

「高ちゃん、お兄さんが居たんだね!

初耳っ」

「まぁ……」

私は2人にも同じように質問を振っていく

「赤西くんはエレキギター始めてどのくらい?」

「俺は1年前くらいかな、大学の友達がいらなくなったエレキくれたのがきっかけで」

「そうなんだね!誰かに教えてもらったり
したの?」

「まぁちょっと友達に聞いたりはしたけど
ほとんど独学かな」

「独学でもちゃんと弾けるように
なるんだねー!」

「まぁ、俺は真白さんと違って
器用っすからねー」

そう言って、鼻で笑った赤西くんの肩を
私はバシッと軽く叩いた

「爽くんは?すごくギター上手いけど!?」

「アハハっ、そんなことないよ」

「僕も大学時代に友人に教えてもらいながら
始めたから」
「えっと……何だかんだでもう5年以上になるのかな?」

「どうりで上手いはずだよね!」

「人前で弾き慣れてるなーって思ったよ
初めて爽くんの弾き語り聞いた時から
「まぁ一応、今までにも何度か友人に誘われて人前で演奏したりもしてたからね」

「やっぱりそうなんだね!」

「私なんてサークルメンバーの前で歌うだけで緊張して震えてたのに!」

4人はクスクスと笑いながら
それぞれに演奏の準備を整えた

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第2話~重なる音~

私がマイクテストとして曲のサビを少しだけ
歌ってみると……

「~♪~♪~♪~」
しっかりしたリハーサルスタジオで歌ったせいか、いつもよりも音が力強く綺麗に響いている……そんな気がした。

「じゃあ皆で1曲通してみよう!」
私は楽器を抱えてスタンバイした皆をチラッと見た……3人とアイコンタクトをとると
「スリーツーワン」と爽くんがカウントを
とり、それと同時に楽器によるイントロが弾けるように部屋に響き渡る

歌い出しを間違わないようにしっかりと
意識して私は思いっきり息を吸った……

4人の奏でるハーモニーは、前よりずっと綺麗に重なってまるでお互いの繰り出す音で会話をしているかのように聞こえてくる……
それぞれパート事の個性を生かしつつ、1つの音の塊になって美しいメロディで包み込む

私の少し自信なさげな歌声を支えるように
赤西くんが強く大きく歌う、エレキギターの
お洒落で自由奔放な激しい音を包むように
爽くんのギターの音は奏でられ、そんな楽器の後ろで目立つことなく的確なリズムを奏で続ける高ちゃんのベースの音がバンド演奏を引き締める……
音が言葉にならない言葉となり
私達を1つに繋いだ!そんな感覚さえした。

曲の最後の音が「ダンッ!!」と綺麗に揃うと、4人は顔を見合わせて笑った。

私の胸はまるで、ドラムを叩くようなリズムでドキドキドキドキ高鳴っていて……
エアコンをつけているにも関わらず、額からは少し汗が滲んでいる

「真白さん……」

「だいぶ声、出るようになったっすね」
「うんうん!僕もそう思ったよ」

「えっ、そうかな……ありがとう」
私は照れるように少し笑った

「でも、皆の演奏がすごくなんていうか
前より綺麗に重なってて歌いやすかった!

「確かに、前よりなんだか4人の息が
ぴったり揃うようになった気がするね」
爽くんは優しい顔でニコッと笑った

「赤西くんのエレキギター……」
高ちゃんが珍しく3人の会話に入ってきたので
私達は一斉に彼女の方をバッと見た

「初めて聞いたけどかっこ良かった。」

「えっ!!そうっすか?」
「ありがとうございます」
赤西くんも珍しく照れたように鼻の下を指でこすりながらチラッと私の方を見た

「エレキギターがね!」
と私は念を押すように言った

「分かってるっすよ!」

爽くんはそんな私達を見てクスクスと笑いながら「じゃあ、この調子で次の課題曲もいってみよう!」と言うと、譜面を1ページめくり進めた。

2時間の猛練習の後……
4人で同じみのカフェで夕食をとりながら
ワイワイと語り合っていると、気づかぬうちに窓の外は真っ暗になっていた……。

……辛く苦しい日々は無限の時間にさえ
感じるのにな……

私達は、お会計を済ますとカフェを後にして
4人で駐車場に向かって歩いた。

夏の夜風がスーッと吹き抜ける……

私がふと、空を見上げると……

光の無い空にポツリと灯った一番星が
綺麗な輝きを放っていた。

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第3話~新しい出会い~

ある日のこと……

何気なくいつものようにスマホを確認すると
そこには、久しぶりに海くんからのメッセージが届いていた。

〈海くん〉白ちゃん久しぶり~♪

〈私〉久しぶり~(〃'▽'〃)

〈海くん〉実は……いきなりなんだけど
俺の会社の後輩に白ちゃんの話しをしてたらちょっと気になったみたいでさ!
今度そいつと二人で1度食事にでも
行ってやってくれないかな?(´V`)♪

〈私〉えっ!私が!?

〈海くん〉そうそう!
この前、出会いがない~って
言ってたじゃん(ゝω・)

〈私〉言ってたけど……
それにしても、突然すぎだよ!(..;)

〈海くん〉ごめんごめんw
だけど、そいつ今彼女募集中みたいよ♪

〈私〉そうなんだねヾ(・ω・`;)ノ
ちなみに歳は?

〈海くん〉白ちゃんより3つ下の23歳

………赤西くんくらいの子か……まぁ歳は
関係ないと思うけど、相手の子は良いのかな……私で……

〈私〉紹介してもらっても上手くいかないかもしれないよ?|ω・`)チラ

〈海くん〉オッケー('-^*)okじゃあとりあえず連絡先教えてあげても良いかな?

〈私〉うん(._.)

ということで、早速数分後に私のスマホには颯斗くんという男性からのメッセージが
届いた。

〈颯斗〉海先輩から紹介してもらった
颯斗です!良かったら今度一緒に
ご飯でも行きましょう(^^)v

嬉しいんだけど……なんだか、急な展開すぎて頭が追いつかない……
考えてみれば、前の人と別れて以来
恋愛を意識するなんて久しぶりだな……

……こらこら、浮かれるなよ真白。……

昔の私ならきっと、迷うことなく断っただろう……
だけど今の私は貴重な時間と出会いを何より
大切にしたい……
そんな思いから、まだ全く何も知らない一人の男性のことを知ってみる努力をしようと
意気込みメッセージを返信した。

来週の日曜日の午後3時に駅近くのカフェで
という約束をして……

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第4話~年下の彼~

日曜日正午3時……駅前のカフェの入り口に私は立っていた。

ドキドキしながら何度か手鏡でメイクが崩れていないか確認していると……
「真白さんですか?」と急に声をかけられた

そこには、スラッと背が高く猫のような大きな目でこちらを見るシルバーのピアスをつけたお洒落な男性が立っていた。

……この人が颯斗くん……

「あっ、はい!初めまして今日はよろしく

お願いします」

「アハハ、海先輩の話し通りの人ですね!
年下なんで敬語は止めて下さいね」
とニコッと笑った

……海くん、私のことどんな風に説明したんだろ……そんな一抹の不安を胸に二人はカフェに入っていった

テーブルに案内されて椅子に腰掛けると
ひとまず、二人は飲み物を頼んだ
「真白さんは何にします?」

「私はアイスレモンティーで」

「じゃあアイスレモンティーとアイスコーヒー2つで」と颯斗くんは店員さんに伝えた

久しぶりの男性とのデートに緊張していた私は、アイスレモンティーをひたすら飲み続けて気を紛らわせていたせいか既にグラスが
空になっていることにも気づかずストローで溶けた氷の水を啜っていた。

「真白さんって音楽サークルでボーカルしてるんですよね?」

「あっ、はい……うん」

颯斗くんはクスクスと少し笑っている

「ボーカルってほどじゃ、ただ好きなように歌を歌ってるだけだよ」

「えっ!同じ意味じゃないですか?」

「まぁ、そうなんだけどね……」

……なんか、ボーカルって響きが私には
おこがましいような気がして……

「人前で歌えるなんてすごいですよね!」

「そんなことないよ……誰でも歌えるよ」

「俺、こう見えてあがり症だから
絶対無理です」

「そうなの?そんな風には見えないよ!」

「見た目こんなだから良く言われるんです
けどね」

言いながら恥ずかしそうに笑った
「学生時代、文化祭でステージの上で喋らなきゃいけないことになった時……緊張しすぎて
声が出なくなったこととかもあったしね」

「えっ、そうなんだー」

「意外だねっ」
「でしょっ!トラウマで今でもステージに
なんて立ちたくないしね~」

「でも、私もそうだからその気持ちすごく
分かるよ!」

「うんうん!知ってます」

「えっ!?」

「真白さんのそういう話しを海先輩から
聞いて……それなのに挫けず人前に立とうとする人ってどんな女性なのかなって気になって
1度会ってみたくなったんだよね」

颯斗くんの猫のような目に1度見つめられると吸い込まれそうになる……そんな力を彼は秘めている

私は照れるように口元を指で押さえながら
「そうだったんだね」と答えた

「実際に会ってみてもイメージ通りの人でしたし、むしろもっと真白さんのこと知りたくなりました!」

……私は一瞬、夢でも見てるんじゃないかと
思いながら多分人生で最初で最後であろう
年下男性からのストレートなアプローチを
受けていた……

「また次いつ会えますか?真白さんの歌とかも聞いてみたいです!」
キラキラしたような眼差しが私に突き刺さる

「うっ……うんまた連絡するね」
私はとっさにそう答えると彼は嬉しそうに
笑った
その笑顔にはどこかまだ子供のようなあどけなさが残っていた。

今まで嫌悪感を向けられ続けることが
多かった人生だった私に……
こんな風に異性から再び好意を向けてもらえる日が来るなんて……
本当に勿体ない話しだ……

……神様、本当にありがとうございます……
心の中で私は土下座した。

そんな、些細なきっかけで知り合った颯斗くんと私は二回目のデートでは自然に手を繋いで歩くようになり……いつの間にか恋人
なっていた

人生で2度目の彼氏が出来た
そんな26の夏……

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