体験記│コミュ障を治すために人と繋がる―生きづらさを抱えて 第10章

体験記 第10章 心を食べて、心で生きる

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第10章~繫がり~

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第1話~本当の気持ち~

高坂さんのスタスタ歩く後ろ姿を追いかけ
ながら……
赤西くんから聞いたこの前の話を
一人思い出していた……

赤西くんがこのサークルに初めて参加した時には、すでに高坂さんが参加していた……
基本的に照れ屋で人見知りな赤西くんは
私と同じようにはじめは中々サークルメンバーと馴染めなかったらしい。

そんな時たまたま隣にいたベースの高坂
さんに
「女性でベース弾けるって格好いいっすね」
と話しかけたそうだ……
だが、彼女は一瞬赤西くんをチラッと見ると…フィッと何も言わず立ち去った……

その時は赤西くんもショックを受けたみたいだが……
後々、長峰さんから彼女の話を聞くと
その行動にも納得できたと話していた。

彼女は昔の私と同じく極度のコミュ障らしく滅多にサークルのメンバーとも話さない
ようだ……

その中でも特に男性は苦手で、自分から避けてしまうとのことだ……

「無理に話しかけなくても良いよ」という
言葉に一瞬ドキッとしたが……

もしかしたら、彼女なりに私に気を遣って
くれていて……

「自然体でリラックスして、一緒に居てくれたら良いよ」という意味なのかもしれない……

現に、高坂さんはさっきから少し歩くスピードが遅くなった私に合わせるようにゆっくり歩いてくれている……

私は、少し早足で高坂さんに駆け寄って

「いつも、サークルの帰り道は高坂さんと
一緒なので心細くなくて助かります!
ありがとうございます!」と言って
彼女の顔色を伺ってみた……

高坂さんは少し照れたような表情で
フィッと明後日の方向を見て顔を隠した。

彼女の本当の性格を知ることができたのは
赤西くんに話しを聞いていたおかげもある

だからこそ、この前の私の思い切った行動は
新しい人間関係を築く上で大いに役立った
そう言えるような気がした。

駅のホームに降りると今日もまた高坂さんは
向かい側のホームで一人スマホに集中しているように見えた

……高坂さんと私は少し似てる……

……私ならこんな時
相手にどうしてほしいだろう?……

珍しく、今日は一瞬高坂さんがこちらに
チラッと視線を送ってくれたので……
私は自分の中で精一杯の笑顔で小さく右手を振った……
スルーされればかなり虚しい行為になるが……

そんな私の不安とは裏腹に、高坂さんも少しだけ微笑みながら小さく手を振り返してくれた。

今日、私の心に流れるメロディは
いつもより少し温かく穏やかだ……

こちら側のホームにいつもと同様に電車が先に来た……
この前までは、向かいのホームに居る彼女を
チラチラと気遣いながら電車の席に座るまで落ち着かなかったが、今日は何も気にかけることなくスッと乗り込むことができた。

ガタンゴトーンと揺れながら進み出す電車の窓から外を見た

……この景色もだいぶ見慣れたな……

今日はいつものような疲れが襲って来なかったので、眠たくならなかった

私は、スマホのスケジュール帳に入った
次のサークルの日程をチェックして

……次は7月末……
……演奏会前、最後の練習かぁ……

そんな風に一人、ぼんやりと考えていた。
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第2話~アラサーのWデート~

ある日、仕事終わりにふとスマホを見ると
愛美ちゃんからメッセージが届いていた………
「前に白ちゃんと一緒になった街コンで出会った人から遊園地に行かないかって誘われたんだけど!その人の友達も誘って4人で一緒にどうかな?」という内容だった。

それは、アラサーになった私にとうとう訪れた人生初のWデートのお誘い……

私は迷うことなく「行く!!」と返信した

今週の土曜、真っ暗な学生時代に夢にまで
見たWデート!!
自作のマンガの中では何度も描いた
ときめきWデート!!
私は一人浮かれ気分で、その日に着ていく
服のコーディネートなどを考えながら
部屋の鏡と睨み合っていた。

そして……ついに

待ちにまった!土曜日!!

地元の小さな遊園地の入り口に、私と愛美
ちゃんは立っていた……
すると、少し離れた方から見知らぬ男性2人組が私達の方に手を振りながら歩いてきた……

「ごめんね!お待たせして」
2人組の一人は愛美ちゃんとメッセージの
やりとりをしている祐樹くん、もう一人は
その友達の海(かい)くん、2人共同い年だが
見た目が少しチャラチャラしていることも
あり私より年下に見えた。

「今、来たとこだから!大丈夫だよ」
そう言いなが愛美ちゃんが私の方をチラッと見た……
何となくその眼差しからは
……2人の印象どう?………と聞いているような気がした。

遊園地に入ると、愛美ちゃんの隣には
祐樹くんがずっとべったりのようで
私は自然と海くんと2人で行動するように
なった……

海くんは派手な髪色にツーブロック、ガタイのいい体の胸元には、お洒落なシルバーのネックレスをつけていて……煙草も吸っている
正直なところ初対面では少し警戒していたが……
実際話してみると、明るくて喋りやすい本当に良い人だった。

遊園地の中に入るとアトラクション前には
すでに長蛇の列ができている

「真白ちゃんは、絶叫マシンとか
大丈夫な子?」

「苦手かなー。っていうか乗ったことない」

海くんは少し珍しいものを見るような目をしながら
「すっごい楽しいよ!スカッとするし」
と言った。

「車酔いとかひどいタイプだから……」

「そうなんだ!」

「……。」

私達の性格はきっと正反対なんだろう……

昔の私なら、ここですぐに心をシャットアウトしていた……

きっと……

でも、それじゃ駄目なんだ……

変わりたいなら自分から踏み出さないと……
「だけど……乗ってみようかな?人生初のジェットコースター!!」
私はそう言って、海くんの方をチラッと見た

「お~♪良いじゃん♪」

「こんな機会でもなかったら経験すること
なく人生終わっちゃうだろうし」

「おぉー真白ちゃん!その息、その息♪」
海くんはニカッと笑った

さっそく二人共、仲良くなってるね~」
「あっ、ほらあれだよ!白ちゃん」

愛美ちゃんがそう言って、指差した先には
「キャーーーーッ」という絶叫が空高くから恐ろしいほど響きわたる……
この遊園地最大の売りのジェットコースター

ゴクリ……
私はひそかに息を飲んだ

3人はそれを見ながら平然とした顔で笑っていた。

……大丈夫、大丈夫、きっと大丈夫……

運が良かったのか、悪かったのか

私達はジェットコースターの1番前の席に案内されたので、愛美ちゃんと祐樹くんが最前列、私と海君は2列目に二人で座った

「今更だけど、真白ちゃん本当に大丈夫?」
私の真剣な面持ちを見て、海くんが問いかけてきた。

「大丈夫です!覚悟は決めました!」

「ブハッ、真白ちゃんって案外男気あるんだね!」と吹き出すように笑った

ジェットコースターは
「ガタンガタン」と音を立てながら
ゆっくり1番高い所まで登っていく……

……小さな勇気は未来を変える……

そう自分に言い聞かせた
……次の瞬間

「ビュオオオッ」という風の音と共に
ジェットコースターは急降下した

3人は楽しそうに笑いながら叫び声を
上げている……

私はというと……
ギュッと顔を真ん中に引き締めて、酸っぱいものを食べたお婆ちゃんのような顔で声すら出ないまま死にかけていた。

………早く終われーーー………

そんな、私の気持ちを無視するかのように
ジェットコースターは宙を舞う竜のように
1回転する

一瞬、意識を失うのではないかとすら思ったが……数分間ひたすらそれに耐え続け、無事
地上まで辿り着いた。

……終わった。……

私の目には微かに涙が滲んでいる……
だけど、この涙は今まで私が散々流してきた
苦しみの涙とは少し違う……
達成感や安堵感からくる人生で初めて流した涙だ。

「白ちゃん大丈夫?」
愛美ちゃんが心配そうな顔で私の顔を覗き込む、海くんもどこか申し訳なさそうな表情で
私の隣を支えるように歩いてくれていた

……前の私ならこの空気に耐えられなくて
作り笑いをしながら大丈夫って言うんだろな
……そう思いながら……

「全っ然!大丈夫じゃなかったよ!!」
と言って笑った

「アハハ、だろうね!白ちゃん顔が
死にかけてたしー」

「ほんとだよー」

「だけど…今、私生まれ変わったような気分だよ!邪念が吹っ飛んだ!!」

「真白ちゃんって修行僧か何かだっけ?」
と言いながら祐樹くんも笑った

「新たな真白ちゃんの誕生にカンパーイ
そう、ふざけるように海くんも話しに
のっかった。

そんな楽しい雰囲気のまま、4人は1つだけ
空いていたベンチに仲良くギュウギュウ詰めに座りながら……
海くんと祐樹くんが買いに行ってくれた
ジュースを飲みつつ休憩した。

私は掌をおでこに当てて光を遮りながら
空を見上げた……

そこには少しクラクラするくらい
美しいブルーと眩い光が差し込んでいた

……なんだか、私の描いた妄想マンガの中の世界に居るみたいだな……

……楽しい……

少し遅めの青春気分をアラサーになって初めて、ただひたすら噛みしめるように味わった……

そんな記念すべき1日だった。

結局、愛美ちゃんと祐樹くんはこの後何の
進展もないまま疎遠になったみたいだけど……

私と海くんは、お互い恋愛感情は抱けなかったものの、せっかく何かの巡り合わせで
出会えたのたがら……ということで
時々お互いに仕事の愚痴を言いあったり
愛美ちゃんと3人で飲みに行ったりと
今後も私の初めての男友達として関係が続くようになるのでした。

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第3話~新入り~

灼熱の太陽が降り注ぐ……
日中は特に汗がタラタラと滴るように暑くなり、1日を通して半袖で過ごせるくらいだ

私は白いシースルーブラウスにデニムのロングスカートを履いて、サークルの練習が行われている古民家の開き扉をあけた……

ガラガラッ

「こんにちは~」

「白ちゃん、こんにちはー♪さぁ

上がって上がって♪」
長峰さんは、何故か今日テンションがかなり高めだった……

私が練習部屋に入ると、いつもより少し到着が遅れたこともあり既に練習が始まっていた

そっと辺りを見渡すと、そこには見慣れぬ
男性が一人座っている……

「今日から、新しくサークルに参加させて
もらうことになった三爽(みさわ)です」
ペコッと礼儀正しく挨拶をした。

彼は私と同い年でギター経験者らしい

「あっ、光野ですよろしくお願いします」

「三爽くんは、弾き語りが得意らしいから
一度皆に披露してもらおうかな♪」
長峰さんはそんな無茶ぶりをしたが……

意外にも三爽さんは
「あっ、大丈夫ですよ!
何か弾きましょうか?」とすんなり
受け入れた。

彼の雰囲気をひと言で表すなら
石鹸の泡という感じだ。

真っ白で優しそうで、フワフワとした
そんなイメージ、どこか昔付き合っていた
彼の雰囲気に近い。

練習部屋では、サークルメンバー全員で
輪っかを作るようにして座り三爽さんの演奏を聞く体勢入った。

「では、お恥ずかしながら1曲

演奏させて頂きます!」

そう言うと、あぐらを組んだ足にギターを
乗せるようにして

「ジャガジャガジャ~ン♪」とピックを弾きながら歌いはじめた。

……見た目と違って度胸あるんだ……

部屋の中には彼の演奏と歌声だけが響いた。

演奏が終わると彼はニコッと爽やかに笑い
ながら「少し失敗しました、すみません」と
言ったが……
全くそんな所は言わなければ分からなかったし……それどころか、周りの人の心を包み込むような優しい歌声とギターの音色に一同
釘付けになっていた。
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第4話~不思議な雰囲気~

パチパチパチパチ

「何だか、照れますね」

「いやー良かったよ!三爽くん!!
すごい弾き慣れてるねー♪」
長峰さんは嬉しそうに三爽さんの肩をポンポンと叩いた
「そんなことないですよ」

彼はポスンとベースを持った高坂さんの隣に
座ると
にっこり満面の笑みで
「よろしくお願いします」と挨拶した

彼の明るく優しいオーラに当てられたのか
さすがの高坂さんも珍しく彼の顔を見ながら
「よろしくお願いします」
と微かに笑うように答えた。

そんな、新しいメンバー三爽さんを含めての
サークル練習が始まった

湯川のお爺ちゃんも新しいアコースティックギター仲間に興味津々で三爽さんにあれこれ質問を投げかけている

全員で合わせて演奏をする時には、さっきの弾き語りとはまた違って三爽さんのギター
演奏は目立つことなく周りの音を優しく
カバーするような弾き方に変わっていた……

楽器全体の演奏が、明らかにいつもより綺麗にまとまるような、しっくりとした美しい
ハーモニーが響いたようなそんな気さえ
した。

練習が終わると長峰さんが声をあげた
「皆さん、今度の8月の演奏会の日程が
決まったのでプリントを配ります」

カフォンを片手でひょいと持ちながら
山本さんがプリントを手にした
「へぇ~今年もこの町の文化会館の小ホール
でやるんですねー!
三爽くんは入ったばかりだから大変だね」

「そうですねー、けど頑張りますよ!
お客さんはどんな方が来られるんですか?」

「主にサークルメンバーの身内関係者だよ!
できるだけ大勢の友人に声をかけといて♪」長峰さんはそう言うと、プリントに書かれた
詳細を簡単にまとめて皆に伝えた。

「毎年、この演奏会を私の子供達も
楽しみにしてるんですよ~」
そう嬉しそうに笑いながら瀬田さんが
ピアノの楽譜と一緒にプリントを鞄に仕舞う

「そうなんですね!
俺も大学の友達が毎年誘ってもないのに
次はいつやるんだ??とかうるさくて」
赤西くんも珍しく会話に入ってきた

「お爺さん、急がないとイタリアンレストランの予約時間に間に合いませんよ」
湯川のお婆ちゃんがお爺ちゃんのギターを
せかせかと片付けながら小さく呟いた

「おぅ、そうじゃった!それじゃあ皆さん
演奏会、頑張りましょう」
そう言い残すと二人は部屋を退出した

「僕も、お腹ペコペコだよ」
山本さんは相変わらず練習後はすぐに
お腹が空くようだ……

「山ちゃんは俺とこの後二人で演奏会の
打ち合わせだから、ご飯はお預けだ!」
長峰さんは山本さんの頭上にヒラッと
プリントを乗せた

山本さんはがっくりと、肩を落としていたが
長峰さんがその肩を組むようにして二人は
練習部屋の奥にある別室に入っていった……

「じゃあ、私も家のことがありますし
今日はこれで」と言って
瀬田さんも部屋を後にしたので、練習部屋には私と高坂さん、赤西くん、三爽さんの20代メンバーだけが残された。

一瞬沈黙した微妙な空気を壊すかのように
三爽さんが口を開いた

「皆さん、夕食はどうされるんですか?」

「あっ、特に予定は……」と私が言うと

「なんか、お腹空いてきたっすね」と
赤西くんがお腹を押さえた

「じゃあ、4人でご飯でも行きましょうか」
ニコッと笑いながら三爽さんはスラッとその言葉を吐いた。

……私がどれだけ躊躇いながら今まで
その言葉を言えずにきたか……

三爽さんからは、私達3人とは違う
初対面から人を吸い寄せる力、柔らかさの
ような不思議な雰囲気を感じた……

「三爽さんは電車っすか?それとも車?」

「電車だよ!赤西くん達は?」

「光野さん達は電車で俺は車なんで
良かったら乗せますよ!」

「本当に!助かるよ赤西くん
じゃあ、お言葉に甘えて」

私は、そんな二人のやりとりを聞きがら
赤西くんの方をチラッと見て

「よろしくお願いします」
と少しペコッと頭を下げた

それから、4人は赤西くんの車で近くの
カフェレストランに向かった。

……ドキドキ、ワクワク……

私の夢にまで描いた青春サークルライフが
突然現れた一人の男性の手によって
今、まさに実現しようとしていた。
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